2020.01.31.FRI

新技術

がんの機能解明から新薬開発を目指す人へ【第1回】

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執筆者:GMP Platform事務局

【第1回】がんのゲノム検査がいよいよ開始される!

・はじめに
日本の製薬企業が抱える大きな課題。それは国内市場の縮小です。少子高齢化による人口減少による内的要因。そして、世界人口(約77億人)の約37%を有する中国(約14億人)とインド(約13億人)の医薬品市場の拡大という外的要因。世界から見た日本の医薬品市場としての有益性は如実に低下しつつあります。そのような背景から、製薬企業各社の研究開発競争は厳しさを増しています。その厳しい研究開発の環境下で新薬を創出し時代を切り開いていくには、どうすれば良いでしょうか?
筆者は、ライフサイエンス業界に専門商社として20年以上携わり、大学及び国立研究機関等で最先端の研究に勤しんでいる研究者様の縁の下の力持ちとして研究支援を実施して来ました。基礎研究の最前線では、世界と戦い続けている日本人研究者の方々が、新たな研究成果を日々、発信しています。その研究成果を創出するために、弊社と共に、研究機器や研究試薬の提供をしていただいている研究機器メーカー様がいます。今回は、世界を代表する研究機器メーカー様の臨床分野での応用、ひいては医薬品開発の強力なツールと成り得るサービスを一連の流れでご紹介させていただきます。少しでも皆さまのお仕事のお役に立てれば本当に嬉しいです。第1回は、世界トップシェアの次世代シーケンサーメーカーでありますイルミナ株式会社様より、がんゲノム検査の最前線についてご紹介していただきます。
 
 
1、がんパネル検査の実装
がんは遺伝子の変化・変異によって発生します。これまでのがん研究により、既に多くのがんに関与する遺伝子が同定されており、がんの成長を加速する遺伝子変異がわかっています。がんの進行には複数の遺伝子が関与することがわかっていますが、これまでのDNAシーケンサーやPCR法では、臨床検査において、一度に数個の遺伝子の変異しか調べることができませんでした。
このような背景の中、KRAS/NRASやBRAFといった主要ながん関連遺伝子の変異を持つがんに特異的に有効な治療薬が開発され、その医薬品の効果を判断する遺伝子変異の検出を担う診断(コンパニオンダイアグノスティックス、CDx)と治療を併用する時代がやってきました。同時に、遺伝子配列決定技術の加速度的向上により、更に多くの遺伝子を一度に検査できることが可能になりました(図1)。そこで、オンコマインDx Target Test マルチCDxシステムのような次世代シーケンサー(NGS)を利用した、バイオマーカーのマルチCDxが利用されはじめています。マルチCDxでは一度に数十種類以上と多くの遺伝子の変異解析が可能です。
 
 
図1 これまでKRAS/NRAS/BRAFの変異(緑円)検出検査はPCR法などによりそれぞれ別々に実施されていた。NGSはこれを包括し、報告もシンプルにすることができる。
https://jp.illumina.com/content/dam/illumina-marketing/images/systems/miniseq/takeover/PDF/miniseq-infographic-mobile.pdf

弊社でも2019年11月、NGSであるMiSeqDxを医療機器登録し、国内外の企業と共同してCDx開発を支援しています。

図2 医療機器登録されたMiSeq Dx システム
100遺伝子未満のパネル検査に適している。

一方で、がんに関与する遺伝子の情報が増えてくると、100を超える遺伝子の変異を一度に網羅的に同定できる検査方法も開発され、特にがんに重要と考えられる遺伝子の変異を網羅的に調べるプロファイリング検査が始まりました。OncoGuide NCCオンコパネルシステムは国立がん研究センターとシスメックスが共同開発した製品で、弊社のNGS医療機器NextSeqDxを利用して、114の遺伝子を網羅的に検出します。


図3 医療機器として販売しているNextSeq Dx システム
100遺伝子以上の大きながんパネル検査に適している。

患者さんのがん組織を摘出し、一旦細胞を固定した後、その組織片から得たDNAと、血液から得た個人本来のDNAの塩基配列を詳細に比較して、がんにより特異的に変異した遺伝子を精密に調べて報告します。また、海外へのがん組織検体の送付により検査を実施するFoundationOne CDx がんゲノムプロファイルは更に多くの320遺伝子を網羅的に検出することが可能です。これらの検査の結果、これまでに検出できなかったがんの遺伝子変異が患者さんのがんに見つかり、その変異に基づく新たな治療方法が適用できることが期待されています。


2、改良されたがんパネル検査、TSO500
がんの原因として、遺伝子が他の遺伝子と組み換えを起こし、その結果として、異常に活性化された融合遺伝子が創造され、がん化が促進されることがわかっています。肺がんにおけるALK遺伝子などで発見されたその例は、現在その他のがんでも報告されています。このような場合には既知の遺伝子のDNA配列の確認だけでは無く、組み換えの結果として得られる新規の融合RNAを検出することが重要です。弊社のがんパネルTSO500では、特殊な技術とRNA Libraryの使用により、融合DNA由来の新規融合RNAを効率的に検出することが可能です(図4)。








図4 TSO500で利用されているキャプチャー法の特徴
アンプリコン(Amplicon) 法の場合、上流(EML4)と下流(ALK)の両方の融合パートナーに対するPCRプライマー設計が必須となる。新規遺伝子(この場合X)が融合した場合、既知の上流プライマーは対応できない。キャプチャー法の場合、プローブが一方の融合パートナーにのみ結合した場合でもキャプチャーし、その後の処理によりシーケンスする事が可能となる。

また、がんは進行していくとその遺伝子に非常に多くの変異を蓄積していくことが知られています。このような変異の蓄積量(Tumor mutation burden, TMBといいます)は一度にある程度の範囲の遺伝子配列を決めないと正確に把握できないことがわかっています。TSO500はその配列決定領域が大きいことからTMBを正確に判断できます。TMBはがん免疫療法のトピックである免疫チェックポイント阻害剤の効果予測に利用できると考えられています(図5)。

 
図5 TMBの検出
TMBはがん免疫療法の効果予測バイオマーカーとして注目されている。

弊社は2020年、日本においてTSO500を診断薬として申請すべく準備を始めています。
TSO500は血液中に浮遊するがん由来の微量DNA(Circulating tumor DNA、ctDNA)を利用した検査も可能になる予定です(図6)。血液中のctDNAを利用した検査は組織の摘出に比べ、患者さんに負担をかけずに採取でき、NGSを利用することで高感度かつ多くの遺伝子変異情報を得ることができ、今後広く普及すると考えられています。TSO500では血液検体からもTMBを計算することが可能です。


図6 ctDNA検査のメリット
プロファイリング検査において、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織からのDNA は充分な量が得られない場合がある。また、組織の固定処理などに時間を要し、腫瘍の不均一性により、臨床と関連のある変異を検出できない場合がある。組織に代わり血液検体を代用する事が、これらの問題の解決として期待されている。

時代は全ゲノム解析へ
このようなパネル検査の流れと並行して、海外では既にがんの全ゲノム検査が始まりました。DNAの構造を解き明かした歴史を持つイギリスによる国家プロジェクトは弊社との共同にて、先駆的な10万人規模の研究を行い、既に全ゲノム検査の医療実装を開始しています。
同様なプロジェクトがアジアを含め世界中で開始されており、弊社はイギリスで学んだ経験をフルに生かして、各国のプロジェクトを支援しています。
それは単なるDNA配列決定のみではなく、NGSに最適な検体の採取保管方法、DNA配列決定の品質管理方法、塩基配列データの正確・高速解析手法の開発、データの高いセキュリティー下での保管方法の構築など多岐にわたり、全ゲノム検査の総合的ソリューションを提供しており、クリニカルシーケンシングの国際的な標準化につながっています。
これまでの研究ではまだその原因が解明できない、原因不明のがんがあります。そのようながんの原因がゲノムのどこかに潜んでいると考えられ、それらを発見すべく、精力的に研究が進められています。それは例えば、ゲノム上で遺伝子としての情報を持つ領域ではなく、遺伝子の機能調節領域であったり、染色体そのものの構造を支える骨組みの構築に関わっていたりする可能性があります。全長1.8 mにもおよぶDNAが10μm 細胞の核に閉じ込められ、細胞の中で完璧に機能している環境は未知の世界です。
2019年、全ゲノムの情報を臨床情報と共に蓄積・分析し、その結果を医療に実装していくという方針が日本の骨太プランに組み込まれました。2020年からはいよいよ日本でも10万人規模という、ヒト全ゲノムデータが患者さんの臨床データと共に蓄積される大規模プロジェクトが複数年にわたり開始される予定です。日本人の基本となるビッグデータを蓄積し、そのデータの利活用により、日本人に特異的ながんの遺伝子変異や新しいがんの原因が発見され、新たながんの予防法・治療法が開発されることを期待しています。
 
 コーディネータープロフィール
 
   小出 哲司
   理科研株式会社 戦略営業部 部長
 
2002年に理研ベンチャー、
株式会社インプランタイノベーションズ取締役を歴任。
2007年より理科研株式会社に入社。2013年より戦略営業部の部長に就任。新規事業開発及び、企業戦略を立案実行。2017年4月より取締役執行役員に就任し現職。顧客の企業価値を高めるための事業推進ドライバーの創出を一貫して推進している。
 
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~RIKAKENは世界からの最新商品や技術を研究者に提供~
理科研は医療、医薬、農業、食品等の先進科学に関わる製品や技術を研究者に提供する専門商社です。ライフサイエンスをはじめとする様々な研究をトータルでサポートし、多様なニーズに応えています。
 『先端科学の情報発信源』を目指し、ライフサイエンスの発展に寄与する会社です。
  <お問い合わせ連絡先>
理科研株式会社 東京支社 戦略営業部  小出
TEL:03-3815-8951 FAX:03-3818-3186
E-MALE:koide-t@rikaken.co.jp
URL:https://www.rikaken.co.jp/
 

  佐々木 政人
   イルミナ株式会社 営業本部 Large Scale Genomics Project Manager
  
1989年より1998年、全薬工業株式会社研究所にて乳がんの基礎研究に従事
1998年より2009年、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社にてPCR開発本部技術者、MD(Molecular Diagnostics)カスタマーサポート本部部長およびMDマーケティング本部部長
2009年より2016年、株式会社キアゲンにてマーケティング部部長
2016年よりイルミナ株式会社にてクリニカル営業本部本部長
2020年より同イルミナ営業本部 Large Scale Genomics Project Manager
「がんと遺伝子」を主軸として、30年以上にわたり研究ならびに遺伝子解析技術の臨床応用に従事。臨床検査技師、薬剤師、薬学博士

  北野 敦史
   イルミナ株式会社 オンコロジースペシャリスト
1994年より2001年、フナコシ株式会社にてテクニカルサポートに従事
2001年より2019年、株式会社キアゲンにて、テクニカルサポート、マーケティング部およびアプリケーションサポートに従事
2019年よりイルミナ株式会社にて技術営業部に従事
 
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イルミナ株式会社
~ゲノムのパワーを解き放ち、人びとの健康をより豊かにすることを目指します~
イルミナは、遺伝子変異や遺伝子機能の大規模解析のためのライフサイエンスツールや統合システム
の開発、製造、販売を手がけるリーディングカンパニーです。革新的なだけではなく柔軟性と拡張性を
も兼ね備えたソリューションを提供します。

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