2019.08.30.FRI

その他施設・設備関連

細胞加工施設を運用するキャリアの謎【第1回】

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執筆者:鮫島 葉月

細胞加工施設を運用するキャリアの謎

【第1回】なにを勉強されてきたのですか?という鬼門の質問


■執筆者によるセミナー開催
再生医療における細胞加工施設の運営とGCTPにつなぐ考え方
 

私は現状、細胞培養加工施設と呼ばれるハードウエアに関わることが多く、専門分野を問われた際には、僭越ながら再生医療系の施設・製造管理と答えさせていただいている。実際、略歴にそう書いてあるはずだ。前回は施設をネタに、うっかり連載までやっている。
しかし内心、とっても僭越に思っている。何が専門、と自分に突っ込んでいる。さらにいえば「どこでこういった勉強をされたのですか? 理工系ですか、あるいは医学系で?」なんていう質問は鬼門でしかない。
 だって私は出自が文系だからだ。あまつさえ文学部で、哲学科だ。おまえの人生はどうなっているのか、と聞かれたら、人生ってどうなっているんでしょうねとしか答えようがない。

 今、専門人材不足に悩みつつ、教育にも力を入れ始めている「再生医療」であるが、では現在施設の専門家みたいな顔をしている人間は、どのジャンルで仕事をしてきたのか。なにを勉強してきたのか。たまに尋ねられるそんな個人的情報を絡めつつ、本稿では再生医療分野のキャリアについてつらつら書いていくが、個人的情報の部分はあまりに特殊事例であるため、まったくなんの参考にもならないことは先にお断りしておく。もっとも、真似してはいけませんと注意書きなどせずとも、そんな奇特な方はいないだろうから、その点は安心しているのだが。

▽再生医療の人材不足とは
 まず今回は前提条件として、再生医療分野において課題となっている、人材不足について触れておきたい。
 再生医療は比較的新しい分野で、まだまだ専門人材が限られており、法的にも人材が豊富な「薬事」と根本的な部分に差異が生じていることもあって、既存分野からの人材の流通が上手くいっていないのが実情だ。現在、再生医療そのものの教育に力を入れ始めた向きもあるが、そもそもマーケットが小さいためにどんどん人材が集まる、という状況にもなっていない。
 もともと本邦の再生医療と呼べるものは、細胞培養技術の分野から発展している。このため初期の再生医療分野では、スキャフォールド(支持体)や器材開発といった、理工、ケミカル分野の人材が多かった。移植に使える素材や人工臓器、人工血管等の研究は医工学の分野で花開いてはいるが、現時点での再生医療ではむしろ医療としての実用化の観点から「臨床技術」にポイントがスライドしてしまったのが実情だろう。ここが、再生医療の「薬」とは異なっている部分だ。医療提供と技術が一体不可分なために、再生医療ではどうしても医師の力が必要なのだ。
 薬剤であれば、適切な判断基準に基づくかぎり、どんな場所のどんな医師でも処方が可能だ。だから製薬会社は製薬会社として良い薬を作れば良いし、医師は医師で臨床に力を注げばよい。しかし再生医療はいまだ、どんな医師でも行えるというものではない。移植医療と同様、細胞の体内でのふるまいを理解した上で、適切に投与できる力量が求められる。そして同時に、投与される細胞自体が適切に管理されている必要があり、この「管理」には勿論細胞培養の技術理解が必要だが、医師がどのように細胞を扱い、投与に至るかの理解も含まれる。このように、きわめて専門性の高い2つの集合の重なった部分に、再生医療は成立している。
 ストレートな物言いをすれば、もうこの時点で人材が豊富なわけはない。
 ゆえに再生医療が本当に花開くのは、他家細胞治療が可能になり、細胞製品を薬剤と同様の「一定の扱い」におけるようになったとき、と言われている。それはそうかもしれないが、ならばそこまでのステップとされる「自家」の再生医療では、延々と人材不足にあえがなければならないことになってしまい、とてもつらい。
 結局、「食えない」分野では人は来ないため、人材はマーケットに依存するのだ。専門性が極端に高い上にマーケットが小さい現在の再生医療は、なかなか困難な道のりにある。

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鮫島 葉月

鮫島 葉月

一般社団法人免疫細胞療法実施研究会事務局、株式会社日本
バイオセラピー研究所 事業推進部部長
慶応義塾大学大学院医学研究科(修士)修了後、2008年株式会社セルシードに入社。再生医療に係る臨床用細胞加工物の開発および品質保証を担当し、当時の細胞培養加工施設の運用整備(GMP準拠)に携わる。2012年(株)日本バイオセラピー研究所に入社、再生医療関連法に同社を適応させ、特定細胞加工物の製造許可を取得。新規の製造施設設計と運用構築、文書策定等を行い、年間3000バッチ以上の特定細胞加工物を製造する細胞加工施設の施設管理責任者を担っている。
一般社団法人免疫細胞療法実施研究会においては、研究会事務局として、再生医療等を行おうとする医療機関向けに申請サポートデスクを運営。すでに200以上の計画策定を支援している。
また当該法人にはICTA特定認定再生医療等委員会を設置し、委員会事務局として再生医療等の審査対応を行っている。