2019.04.26.FRI

品質システム(PQS)

医薬品品質保証こぼれ話【第3回】

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執筆者:浅井 俊一

医薬品品質保証こぼれ話【第2回】

医薬品品質保証こぼれ話

【第3話】組織の影響

PIC/Sデータインテグリティー(DI)ガイダンス「Good practices for data management and integrity in regulated GMP/GDP environments(Draft 3)」の第6章に「Organisational influences on successful data integrity management」という項があります。ここには「組織の影響」がDIの確保に与える影響と、それに対する対応の考え方が示されていますが、医薬品の品質保証に関し、組織のあり方が影響するのはDIに限ったことではなく、例えば、重大な品質クレームが発生した場合の対応などにも大きく関係することは周知のとおりです。

上記ガイダンスではこの課題に対し「Quality culture(品質文化)」をキーワードにDIへの的確な対処法について考え方が示されていますが、この“品質文化”もまた、DIに限ったことではなく、“品質意識”同様、医薬品品質保証の様々な局面で重要と考えられます。品質文化の構築は集団が持つ特性を十分理解した上に構築されるべきであり、例えば、集団心理や集団的思考がもたらす、重要な問題に対する間違った判断、いわゆる集団浅慮による危険判断(リスキーシフト:危険偏向)には特に注意が必要です。集団浅慮が起きやすい組織では、様々な重要な判断が適切に行われない可能性があり、企業活力の低下に繋がります。集団浅慮により間違った決定がなされるのは、多くの場合、会議の場です。よくあるのは、状況を十分理解していない管理者の意見が、明らかに間違っていても、誰も代替案を示さずそのまま議決されるといった事例です。日頃、組織メンバーとのコミュニケーションが良好で、かつ、柔軟性がある管理者であれば、参加者も忌憚なく代替案を述べることができ、集団浅慮といった状況が回避され適切な結論が導かれます。

この事例に限らず、どんな意見でも自由に述べることができる組織風土、これが品質文化の醸成にとっても大変重要であり基礎になると考えられます。組織の影響がプラスに出るかマイナスに出るかはコミュニケーションの活性化レベルに依存し、コミュニケーションが活性化された組織では好ましい品質文化が形成されます。コミュニケーションが活性化された組織とは、日頃から職員相互に敬愛の念を持ち同じ目線で自由に意見交換がなされ、企業にとって不利と考えられる情報も迅速に共有される組織を指すと考えます。企業組織である以上、業務推進上、最低限の職務階層が必要となりますが、機動性を確保するために、情報の流れは階層に捉われず、可能な限りフラットで、また、それが許容されることが望まれます。そのためには、普段から上下の垣根を越え、同じ目線で自由にコミュニケーションできる雰囲気づくりを、管理者が率先して心掛けることが大切になるでしょう。

ヒューマンエラーの多くはコミュニケーションエラーが原因と言われます。重大な判断に際し、集団浅慮により間違った結論が導かれるのも、背後に潜むコミュニケーションエラーが原因と考えられます。また、工場の変更管理等に際し、重要な変更情報が共有されなかった結果、工程トラブルが発生するといったケースも、コミュニケーションエラーと言えるでしょう。冒頭のPIC/Sのガイダンスに見られる品質文化の醸成に関する記述は、こういったコミュニケーションエラーを回避するための考え方の提示と受け止めることもできます。

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浅井 俊一

浅井 俊一

1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。