2018.04.13.FRI

再生医療

再生医療等製品の品質確保のための要求事項【第8回】

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執筆者:水谷 学

再生医療等製品の品質確保のための要求事項【第7回】

再生医療等製品の品質確保のための要求事項

【第8回】工程の機械化と自動化


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 ここでは、再生医療等製品の商用生産に伴い、細胞加工操作へ直接的に係る装置等の導入を検討する上で、留意すべきと考える点について概説します。標題の意図は、エンジニアの方々には常識のお話しだと思いますが、バイオ技術者と装置メーカー間での議論において、しばしば盲点となることがあると考えています。
 
●機械化とは、自動化とは
 よく新聞等の記事において、自動培養装置という言葉が出てきますが、工学者として製造を考えた場合、「自動培養」という言葉の定義が、曖昧かつ非常にわかりにくいものになっていると思います。その理由は以下のように、複数の要求について、自動培養という言葉に込めて、議論していることに起因していると考えます。
 自動培養の要求は、概して2つの論点に分けられると考えます。1つには、スキルを有する細胞加工を実施する作業者の介在を省き、誰が実施しても均質な操作が行えるようにことの要求です。これは、必ずしも「自動」を求めたものではなく、長期の育成期間(教育訓練)が不可欠な、非常に高度なスキルを保有する特定の作業者の安定的な確保に代わる、動作の制御が行われた工程操作(手順)の要求であると考えます。具体的には、作業時の動作パラメータを詳細かつ明確にし、動作を標準化することにより、繰り返し同じ質の作業が実施できるようにすることで、一般的には、「機械化」と呼ばれる段階であると考えます。機械化では、必ずしも自動(無人化)を求めておらず、重要な操作(動作群)に対し、機械が同じ品質で再現性よく実施できさえすれば、物品を搬送し、装置にセットして開始ボタンを押すなど、製品(細胞)の品質に関係のない単純操作は、作業者自身が実施することで問題ないと考えています。
 もう1つは、無人化を目的とし、上記で例示したような単純操作について、機械が人手を介さずに実施できるようにすることで、土休日あるいは夜間に出勤し作業を行う従事者を極力省ける(人が常にいなくても良い)ようにする要求などが挙げられます。具体的には、ベルトコンベア等を設け、作業中の物品の移動や装置へのセッティングなど、準備や後片付けを含む作業の操作について、予め機械に指図を行うことで、作業者が入室しなくても実施できるようにすることが該当します。すなわち、特殊なスキル等を必要とせず、汎用の技術にて、人の代わりに機械が物品を移動することを意図します。
 一般的に自動と呼ばれる要求のためには、主に、後者の要求を満たすことが必要となります。その上で、機械が作業者(人間)に代わり、操作の開始/終了の“判断”を行い、自ら働くことで、「自動化(自働化)」と呼ばれる、最終段階に至ります。自動化では、工程における各操作の開始や終了の判断のみならず、準備状況の可否や、操作が逸脱無く完了したことの判断も、機械自らが実施します。(当然、逸脱の発生に係る判断も、全て機械がリアルタイムで行えることが理想です。)作業者(管理者)は、実作業は一切行わず、作業内容を指図(プログラム)した後は、それら一連の判断を含む作業の進捗を監視し、確認することが仕事となります。
 上記の前者と後者は、全く要求が異なると考えます。すなわち、再生医療等製品製造の施設設計において、自動培養装置導入の検討(設計時適格性評価/DQ)を行う場合、先ずは、装置の目的(機械化か自動化か)とその要求を明確にする必要があります。そして、いずれの場合においても、細胞を操作する時の動作パラメータ(重要動作パラメータ)が明確であり、標準化できることで、目的の製品品質を達成できる作業を再現性よく実施できること、および、管理者が重要動作パラメータを適切に制御し品質を管理できることが、設計時の前提となると考えます。
 ここまで、単なる常識の説明となり恐縮ですが、以降では上記のように、機械化と自動化として区別し、議論を進めます。
 
●機械化と自動化の課題
 再生医療等製品の製造(細胞製造)における課題としては、現状では、機械化および自動化に対する議論が十分に練られていない場合が多いと思います。また、機械化を進めることが困難となる、誤解や課題も多々生じていると考えます。
 例えば、細胞製造(培養)では、生きた細胞を製品とするため、盆・正月などを含む土休日出勤が当たり前であり、頻度高く製造を進めると作業環境が厳しくなるため、昔から、土休日に作業者が来なくとも培地交換等の作業(細胞操作)を代行してくれる装置の存在が切望されています。一方で、細胞操作は一定以上のスキルを要する作業であり、その要件は、対象となる細胞種や、使用する機器・工程資材によりケースバイケースの手技であると認識されます。汎用(理化学用など)機器の仕様は、個別のノウハウ(重要動作パラメータの制御)に係る要求が含まれていない、機械化できていない操作であり、本来、ここで優先的に示されるべきは機械化のための要求仕様となります。一方で、上記の要望(土休日の無人化)では、無人化を前提とした、自動化に係る要求を想定しがちです。そのため、細胞培養を知らない装置設計者は、機械化のためのパラメータ確立を見過ごし、物品の移動とその判断という、単純な操作の自動運転の要求仕様にすり替えてしまいます。
 また、このような前提のもとに自動化を進めると、現状で作業者が使用する機器・器具(シングルユースの工程資材を含む)を採用し、工程を変更しないように装置設計を行うことで、自動化を達成する要求が示唆されると考えます。具体的には、作業者の手作業をまねることが可能なハンドマニピュレータを用いて、ハンドマニピュレータを含む空間を無菌操作等区域とした装置の想定が考えられます。すなわち、手作業との互換性を考慮し、培養条件を同一とした装置設計で、臨床試験から商用生産開始時における機械化あるいは自動化としては、非常にリーズナブルであると考察します。一方で、ハンドマニピュレータと手作業用の機器・器具の組み合わせには、スキルを有する作業者の重要動作パラメータは含まれないので、プログラマー(装置設計者)が作業者(熟練の培養者)固有の動作パラメータを理解できなければ、装置に作業者と同様の細胞操作を行わせることはとてもむずかしいです。したがって、装置に作業者と同等の細胞操作を実施できるようにするには、ここから多大な努力を要します。私見ですが、上記の手順で装置製作した事例の多くでは、試作時に装置が作業者と同等の作業を実施することが困難であることに気づき、多大な時間をかけ、対象となる動作パラメータの解析と最適化に係る開発を進め、実用化に至ったと考えます。(あるいは、それらを設計時より予想しながら、先に装置を製作、その後、重要動作パラメータの最適化を進める手順について、当初より採用した開発事例もあったと考えます。)
 これに対し、従来の手作業の手順とは異なる、新たな培養方法を提案し、機械化と自動化を同時に考慮した設計、例えば、閉鎖系の培養バッグやバイオリアクタ等、専用容器(器具)の採用を検討すれば、重要動作パラメータは明確かつ詳細に示せます。他方、工程操作が手作業の動作と全く異なるため、従来の操作との互換性を得ることが困難となります。本製造方法の設計では、重要動作パラメータを詳細に決定し運用することは可能ですが、従来操作の重要動作パラメータとの比較の手法が明確でなく、互換性を有するように、重要動作パラメータの管理値(デザインスペース)を決定することは困難です。すなわち、細胞製品は、以前にもお話ししたとおり、最終製品の品質検査で製品の同定ができませんので、工程を変更しても同じ製品(細胞)が作製できたことを証明する手順は確立されていません。

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水谷 学

水谷 学

大阪大学 大学院工学研究科 生命先端工学 特任講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。日本再生医療学会臨床培養士制度委員会委員、H-CARM特定認定再生医療等委員会委員。