2017.11.11.SAT

建設プロジェクトマネジメント

医薬品製造設備の基本、計画、設計、建設プロジェクトを学ぶ【第1回】

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執筆者:戸崎 和夫

医薬品製造設備の基本、計画、設計、建設プロジェクトを学ぶ

【第1回】プロジェクトの一般論

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医薬品工場建設プロジェクトマネジメント入門
~製薬メーカーの方にも知ってほしい手戻りのないPJ管理を目指して~

 
本連載は、これから医薬品製造設備の建設プロジェクトに関わる人や、プロジェクトの実際を知っておきたいと思われる方々にとって、知っておくと役に立つとおもわれる基本的事項を実践的に学んでゆこうという企画です。
 
医薬品製造設備といっても、その種類は広範囲に及びますが、大きく、原薬の製造設備と製剤設備とに分けられることについては、異論はないでしょう。
これらの製造設備は、設備構築に必要な技術の性格が互いに大きく異なります。
従って、医薬品製造設備建設プロジェクトの進め方を議論するときは、本来両方の設備的な特徴を理解した上で、議論すべきであることは論を待ちません。しかしながら、紙面の制約もあり、また本稿の目的もそれらの違いを論ずることではありませんから、これについては他書にお任せして、本連載では、建設プロジェクト遂行の視点から見た設備構築の基本的で共通的な事項について学んで行こうと思います。筆者は、1990年ごろから、主として原薬製造設備の工場建設について、コントラクター側のプロジェクト・エンジニアとして業務に携わってきました。そこで、具体例としては、原薬製造設備を取り上げることにします。原薬製造設備は、製剤設備よりも配管の量が多く、その計画をより複雑化している面がありますので、例題としても適しているでしょう。また、かねてよりプロジェクトを遂行する担当者にとって、「プロジェクトマスタ-・スケジュールの理解が大切」というスタンスを持っていました。そんな関係で、例示として作成した原薬製造設備の建設スケジュールを1つ1つ辿りながら、プロジェクト・マネジメントを疑似体験してゆきます。

1.プロジェクトとは
プロジェクトについて最も包括的にまとめた図書として、PMBOK(*1)があります。 
PMBOKによると、プロジェクトは、「独自のプロダクト、サービス、または所産を生み出すために実施される一時的(有期性のある)な業務である」と定義されています。製造業の生産活動が、「毎日同様な作業を繰り返す連続で繰り返しの仕事」であるのに対し、プロジェクトの場合は「時間と予算の制約の下で、特定の目標を達成するための一回限りの仕事」、という点が特徴です。
プロジェクトを取り巻く環境は、時間や予算だけでなく多くの利害関係者などを含んで、そこには不確定で不透明な状況が多く存在します。しかしながら、プロジェクトの関係者はこうした制約に抗して、個々のプロジェクトに課せられた独自の目標を達成しなければなりません。プロジェクトの使命が1企業の浮沈にかかわるかもしれない重大事だからなおさらです。このように表現すると、いかにも大変だ、と思われるでしょう。確かにプロジェクトを遂行するのは大変で、私も偉そうなことは言えませんが、プロジェクトの遂行にはある共通のルールがあり、それをしっかり踏襲することによりある程度不透明な先を見通しながら進めることができ、困難を和らげることが出来ると考えています。
一方、プロジェクトを遂行するということは、見方を変えると、以下のような、プロジェクトが成立するための要件が満たされていることを意味しています。
   ・目的及び目標が明確であって、実行することが決定されている。
   ・プロジェクト遂行のための手段や資源が、使用可能な状況にある。
プラント・エンジニアリングで考えてみますと、これは、設計、調達、検査、輸送、建設、試運転 といったプラント建設の諸作業に必要な人材や資金(資源:リソースと呼びます)が確保されていて、具体的な製品を定められた量と質で製造するという、目的と目標が明確であることを意味しています。つまり、プロジェクトを遂行するための諸条件は所与のものとして、プロジェクト関係者に与えられているのです。そして、実際の課題は、プロジェクトの目的のために、それらを如何に活用するかにあります。
 (*1) A guide to the Project Management Body of Knowledge Project Management Institute(PMI) 発行
 
さて、プロジェクトには基本的に2つと同じものはありませんが、その中に共通的な
部分があり、それに対してある一定のルールを適用することは可能です。
そうしたルールを学ぶためにプロジェクト・マネージメントの知識が役立ちます。
基本的な考え方は、同じものがないプロジェクトに対して、未経験部分はできるだけ
最小化し、かつリスクを分散する、そして、過去において経験した部分は、その成功
体験を生かすことにあります。そして、まず、プロジェクトの大きな流れとその要件
をつかみ、プロジェクトが進展するに従い、ミクロに、くわしくプロジェクトの内容
を把握して管理してゆくことが重要となります。
この考え方はローリングウエーブコンセプトと呼ばれています。
プロジェクトで構築される遂行組織は、実施される会社の組織によって異なります。
仕事の最小単位(ワークパッケージ)の内容が、それぞれの会社によって異なるから
です。また、プロジェクトの大きさによっても、必要となる要員数が異なり、組織建
ても異なります。
プロジェクトの運営について、最も重要といわれる基本事項に、プロジェクトのQCD(*1)があります。この言葉を使用して表現すると、「プロジェクトのQCDの目標を様々な制約の中で達成してゆく」ということになります。
QCDは多くの場合、互いに拮抗していて、それらの間の調整が大変です、がここに
プロジェクト運営の1つの要諦があります。筆者は、まずは、「時間」に注目しておくといいのでは、と考えています。問題は、最初に‘仕事の遅れ’に表れるからです。
(*1)Quality(品質),Cost(費用),Delivery(納期)
 

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戸崎 和夫

戸崎 和夫

IPP management代表、技術士(化学)、中小企業診断士。
大学での5年間の研究生活ののち、1976年、大手エンジニアリング会社入社、エチレンプラント、化学プラントのプロセス設計を経て、国内外の化学、医薬、食品プラントのプロジェクト・マネージメントを担当。
EPCプロジェクトとして、医薬では、主に原薬製造設備、注射剤製造設備、化学では、繊 維、半導体、ゴム、樹脂、食品では、パン、食品添加物、調味料、精糖など20件以上のプロジェクトを手掛ける。この中で、国内初のケミカルハザード対応注射剤設備の構築も 経験している。
プロジェクトの遂行形態では、特にコンセプト段階からの一貫した提案型プロジェクト遂行の確立に意を注いだ。2014年退社後、中小企業診断士として独立、その後、独立行政法人にて、中小企業の海外展開の支援を行い現在に至る。
ISPE機関誌、Pharmaceutical Engineeringに原薬製造設備の設計に関する論文を3篇発表している。