2017.10.01.SUN

品質システム(PQS)

製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方【第7回】

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執筆者:浅井 俊一

製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方【第6回】

製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方

第7回 ヒューマンファクターとヒューマンエラー

前回まで、医薬品の特殊性、危機管理視点の経営姿勢、コミュニケーション、GMPの合理的な実践、モチベーション、環境整備、こういったことをキーワードとして、ヒューマンエラーとの関係を考察してきました。これらはいずれも医薬品製造におけるヒューマンエラー対策の基礎になる事柄であり、これからご紹介する「ヒューマンファクター」に関する知識をヒューマンエラー対策に、より有効に活用するためには、これらが適正に実践されていることが前提になると考えてよいと思います。
換言すれば、これら基礎となる部分への対応が不十分な状態でヒューマンファクターを考慮した対策を講じても、生活習慣を正さずに健康のためにサプリメントを服用するのと同じで、さほどの効果は期待できないでしょう。先ずはこれら基礎になる部分に関し、万全の体制で臨んでいただきたいと思います。
 
「ヒューマンエラー」は“人為ミス“や“人為的な過誤“などと訳され、一般に、ミスの原因がそれを引き起こした当事者にあるという認識の下に使用されますが、実際には、前回述べたように、ほとんどのケースで組織に潜在する様々な要因が複雑に絡み合い、ミスの原因を構成していると考えられます。このような観点から、ヒューマンエラーと言われるものの多くは、言わば、”起こるべくして起きた”と言っても過言ではありません。
 
一方、「ヒューマンファクター」という言葉は、一般にはあまり馴染のない言葉だと思いますが、ヒューマンエラー対策についての議論をより有意義に進めるためには、この言葉は非常に重要と考えます。「ヒューマンファクター」とは、直訳すれば「人的要素」といったところですが、使用する場合の意味合いとしては、「人や組織と機械設備などで構成される交通、医療、製造など、世の中の様々な業務システムが安全・適正に実行されるために考慮すべき人間側の要因」ということになろうかと思います。
これらのシステムで発生する様々なトラブルの根本原因を究明し、より的確な再発防止策を考案するためには、人間が本来、持ち合わせている特性や弱点、すなわち、ヒューマンファクターに着目する必要があるとの考えから、近年、航空機の事故など、主なヒューマンエラー研究の分野では、好んでこの用語を使用し議論されるようになりました。

さて、では、医薬品製造の分野においてヒューマンエラーを低減するための対策として、ヒューマンファクターをどのように取り込めばよいでしょうか? そのためには、先ず、人間本来の特性・弱点、つまり、ヒューマンファクターにはどのようなものがあるかを知る必要がありますが、その分かりやすい事例の一つとして、「錯視」が挙げられます。

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浅井 俊一

浅井 俊一

奈良県出身。1974年ロート製薬入社。
品質管理、薬事、品質保証の各業務に、それぞれ7年,15年,16年間従事。
2012年退職後、2018年まで中国の原薬工場および日本の受託企業において、改善指導や人材育成を含む品質保証全般の業務に携わる。
中国での活動に、「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、CFDA主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
主な取り組みテーマは、「製薬工場のヒューマンエラー対策」、「中国等海外原薬の品質と安定供給の確保」、「GMP記録の信頼性確保」など。
また、人材育成に関連して、組織コミュニケーションの活性化、作業者のモチベーションの確保などにも取り組む。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー 薬剤師。