2021.06.04.FRI

品質システム(PQS)

医薬品品質保証こぼれ話【第38回】

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執筆者:浅井 俊一

医薬品品質保証こぼれ話【第37回】

当事者意識と予見力

緊急事態宣言の延長にも目に見えた効果が得られない中、変異ウィルスによる重症患者と死者の数は増加の一途を辿り、大阪では5月16日、累計の死者数が1,958人となりついに東京を超えました。海外では、人口13億を超えるインドの感染爆発に収まる気配がなく、1日の感染者が連日35万人レベルを記録し死者の数は5,000人/日に迫ろうとしています。インドがこのような事態になることは、医療体制や衛生環境の現状から多くの人が予想し得たと思われますが、適時に的確な対策が講じられず今の状態を招いています。インド政府のトップが世界のコロナ感染の状況を的確に把握した上で、今の状況を予見し、早めに適切な対策を講じていれば、ここまでの惨状を招くことはなかったのではないでしょうか?このことはインドだけではなく、コロナ対策が後手に回り感染拡大が続いているすべての国に言えることですが、医薬品に関するデータ不正など重大な薬事や品質に関わる事案に関しても、同様に、経営陣が冷静に現状認識を行わず、先に発生する可能性のある事象を予見する力に欠けると、重大な問題を引き起こすことになります。

では、この“予見する力”を培うには何が必要か?それは“当事者意識を持つ”ということではないでしょうか?“当事者意識を持つ”とは、現状の問題を自分のこととして受け止め認識することであり、そのためには、現場に足を運び職員の声を直に聞き、現実を詳しく知ることが大切です。現場の状況を詳しく知ることにより、“現場職員の立場に立って物事を考え判断する”ことが可能になり、それが、“予見力”にもつながっていきます。このことは“現場主義”といったことにも通じ、問題解決に重要とされる“三現主義”の目的の一つは、この“当事者意識を持つ”ことにあるようにも思えます。現場で現物を見て、現実の問題を理解し、そこで作業する方の工夫や苦労を知ることにより、当事者意識を持つことができる。こう考えると、多忙を理由に現場に出向かない経営陣にとっては、当事者意識を持つのは難しいかも知れません。当事者意識を持てないと、現場職員から上がってくる様々なトラブルに関する意見や情報も上の空“他人ごと”となり、その先の“重大な問題の発生”を予見することができないため、当然、必要な対策を真剣に考えることもありません。

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浅井 俊一

浅井 俊一

1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。