2021.04.02.FRI

品質システム(PQS)

GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第43回】

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執筆者:中川原 愼也

GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第42回】

人為的逸脱


1.故障は逸脱ではない
 兵庫県庁で受水槽の排水弁閉め忘れ事件が起きた。1ヵ月の水漏れで600万円の損害である。GMPであったら、この事例を逸脱とすべきであろうか。製造管理や品質管理上、手順に齟齬等があるならば、逸脱とすべきかもしれない。機器等の故障を逸脱しているケースを時々、査察等で見受けた。この件は、故障ではない。排水弁を閉め忘れたヒューマンエラーである。それも1ヵ月間、気付くことなく、放置された。もし、ヒューマンエラーではなく、排水弁が故障等で閉まっていなかった場合は、逸脱とすべきであろうか。この排水弁に関しては、ヒューマンエラーであっても、排水弁の故障であっても逸脱として扱うべきではない。ただし、製造用水として供給に不足が生じ、製造工程で水の添加量が工程管理値を下回ることになれば、その原因とは関係なく、逸脱としなければならない。しかし、この場合は製造用水の添加量が規定値を下回ったという逸脱である。
 すべてのヒューマンエラーが逸脱にはならない。機器の故障も逸脱ではない。工程管理値や規格に外れるから逸脱となる。手順の逸脱も逸脱である。しかし、その手順を間違えると品質に影響するかを考える必要がある。記録や手順書に誤記があったとき、逸脱にすべきとの意見もある。文書の誤記は、修正をかければよい。修正を変更管理とすべきとの意見もある。その手順が変わるならば、変更管理にしなくてはならないが、手順に変更がなく、修正だけならば、変更管理処理はする必要がない。
 その故障の結果、手順となるべき製造販売承認書に記載された内容と異なる管理を行ったときに、逸脱処理しなければならない。その点が適切に行えないということは、その操作手順書等を制定する時に、リスク分析をして、その操作を間違ったとき、どのようなリスクが発生するか検討していなかったことによる。つまり、リスクマネジメントができていないのである。リスクマネジメントの考え方がGMPに盛り込まれる以前から製造している品目だからと言い訳することもある。しかし、古い品目なら、品質照査として、長年の品質の記録がある。ヒューマンエラーが発生したならば、品質照査として積み上げたレビューの結果からそのヒューマンエラーがリスクを招くか検討しなければならない。故障も同様である。そのヒューマンエラーや故障が品質リスクの発生を生じることがないか検証し、その評価を残す必要がある。その評価をせずに、作業者を責めてはならない。金銭面としての損害は、GMPと別の問題である。
 品質照査からリスク分析をする場合、まず、対象の品目の過去の逸脱や品質情報の発生したケースにおいて、どのような原因で発生したか、その是正措置が有効であったかを調査しなければならない。今回の発生した故障やヒューマンエラーがそのリスクの発生した原因となり得るか検討を要することとなる。また、その故障やヒューマンエラーで影響するであろう工程管理値や規格などが品質照査において、どのように変動しているか、レビューすることも必要である。
 ヒューマンエラーが絶えないと嘆いている製造所は、ヒューマンエラーの発生個所や原因、CAPAの有効性等を品質照査し、CAPAの妥当性を見極め、同様な発生し得る品目、箇所を予防措置として、対策することも必要である。品質照査することがリスクマネジメントにつながる。
 

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中川原 愼也

中川原 愼也

高田製薬株式会社生産本部品質統括部門品質統括部長
1984年神奈川県庁に入庁し、1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍した。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)の締結の際のEUの調査、2005年の製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職し、医薬品原薬輸入商社であるコーア商事株式会社で、品質保証部長として国内管理人としてのGQP取決め及び医薬品製造業としての GMP管理を統括した。2015年から株式会社ファーマプランニングにて、GxPコンサルタント業務に携わり、2017年高田製薬株式会社に入社、4月より同大宮工場製造管理者に就任。