2020.11.13.FRI

品質システム(PQS)

ドマさんの徒然なるままに【第22話】

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執筆者:古田 ドマ

ドマさんの徒然なるままに【第21話】



第22話:チコちゃんに叱られそうな大人たち4

「うちは何の問題もありません。」と言い切っている、そこのあなた。永遠の5歳のチコちゃんからの「医薬品の品質って何?」という質問に答えられますか? 「えっ!?」と答えに詰まるようじゃ、まして持論でも良いからマトモに答えられないようじゃ、「ボーっと仕事してんじゃねーよ!」ってチコちゃんに叱られちゃいますよ。査察での指摘は他人事ではなく、自らを戒め改善のための情報として活用し、「つまんねー奴だなぁ!」って言わせてみたいでしょ。本シリーズも、早や4回目*1。「まさか、そんなこと!?」とバカに出来るうちが華かもしれません。そんな問題児とも言える製造所を、最近の米国FDAによるWarning Letterを中心に、EMAの通知や薬業ニュースの中から、筆者のお好みで取り上げてみた。

All You Need Is Compliance
ちょっと珍しいインドネシアP社*2の医薬品製造所に関するものである。この製造所、GMP自体を恣意的に無視していたのか、それとも認識していないのか、いずれにせよ「どうやったら、ここまでいい加減さを徹底できるんだろー」と思うほど不備だらけである。

以下、列記するだけでも、一通りの不備が揃っております。
・   いい加減な出荷前試験
・   いい加減な分析法バリデーション
・   いい加減な原材料の使用~原薬のID試験もせずに供給先のCOAだけに頼る
  (しかも供給先の信頼性は未確認。当然、原薬以外の原材料も同様)
・   いい加減なブロセスバリデーションと洗浄バリデーション~当然、FDAの
  PVガイダンス*3になど沿っていない
・   いい加減な品質部門(Quality Unit)~例として、製造指図書原本の制定、
  製造指図書の管理と発行、コンピュータ化システムの試験室管理の監視
  (試験記録の管理不備でしょうね)、逸脱やOOSの結果評価などが挙げら
   れている。
・   いい加減な経営陣~直接的には言っていないが回答として求められている。
・   いい加減な安定性プログラム
・   いい加減なData Integrity~おきまりの要求だが、これだけ不備が揃ってい
  りゃ仕方ないでしょうね。

ここまでダメ出しが揃うと“圧巻”だね。もはやチコちゃんに叱られるレベルじゃなく、退場か出禁でしょうね。それとも、今風に言えばロックダウン!?

Ticket to Release
品質試験の結果が出る前に出荷と言えば、こんなWarning Letterもある。米国OTC医薬品製造所、K社*4に関するものである。試験検査については外部委託を使っていたようだが、品質試験の結果(COA)が出る数日前に出荷していたらしい。しかも、そのCOAには原薬の試験結果も含まれており、製造記録をもレビューされていなかったとのこと。要は、品質なんて全く気にしていなかったわけね。

原薬については再包装・再表示の業務をしていたらしいが、手順もなく、当然レビューなどしていなかったとのこと。凄いことには、この製造所、3年前の査察にも不備ありとされながら、今回は以前に増して悪化していたらしい。査察官のコメントなんか気にしない太っ腹の “Quality Culture” なんじゃないかと想像しますが・・・。

ここまで来ると、チコちゃんに叱ってもらうなんて手は使えないわなー。

You've Not Got to Hide Your Products Away
委託先の管理が不十分ということでは、こんな製造所もある。米国A社*5の製剤製造所に関するものである。NP甲状腺製品のようであるが、FDA勧告に基づき13ロットを回収したようだ。試験検査は外部試験検査機関を利用していたようだが、ホルモン製剤として重要な原薬のアッセイがUSPを満足しないだけでなく、バッチを担保する長期安定性データも欠落していたらしい。挙句の果てには、査察中にFDAによってサンプリングされた2製品についての試験結果はOOSだったとか。

試験検査も含め外部委託先の管理は、GMPのみならずPQSの一部であるし、もはや言い訳無用でございますなー。チコちゃんに、「ボーッと勘違いしてんじゃねーよ!」て叱られちゃいますね。

P.S. I Warn You
少し変わったところでは、EMAからこんなNews Releaseがなされている。インドのContract LabのP社*6によるジェネリック医薬品の生物学的同等性試験が怪しいので、当該社が実施した生物学的同等性試験に基づいてEUで承認されたすべての医薬品について市場への出荷を停止するというものである。もし当該社のデータに依存しているEUの企業で停止解除するには、(当たり前ですが)生物学的同等性を実証する代替データを提供する必要があるとしている。また審査中のものについては、GCPのすべての側面に合致する必要があるとしている。
《注》EUでは、GCPで使用される治験薬はEU-GMP下で製造されていなければならない。

うーん、困ったちゃんですねー。以前にもContract Lab による不始末で世界中が困惑したという事件があったと記憶しているが、EUの場合は、一国では済まずに多国に影響が及んじゃいますからね。チコちゃんに“喝”を入れてもらいましょ。

Twist and Germs
あれやこれやと指摘を喰らっている製造所もある。カナダL社*7の非無菌製剤製造所に関するものである。主には、小児用を含むOTC医薬品のようであるが、以下に示すように、かなりの指摘を喰らっている。
・   設備設計の不備~高純度精製水を使用しているようであるが、USP要件を満たし
  ていない
・   製造管理手順の不備
・   機器洗浄の不備
・   機器の消毒・殺菌の不備
・   安定性試験の不備~保管条件・使用期限を保証できない
・   原材料の受入試験の不備(ID 試験も原材料サプライアーの適格性評価もなし
  COAのみ)~特に過去に問題となった「グリセリン中のジエチレングリコール
  およびエチレングリコールチェック」*8を怠ったと記されている。
・   不適切な品質部門(Quality Unit)
このうち、最たる指摘はトップに示した設備設計、いわゆるDesign Qualificationの不備と言える。

非無菌製剤でグリセリンを使っての小児用と言えば、咳止めシロップか何かなんでしょうが、こんな会社のクスリを子供に飲ませたくはないよね。永遠の5歳のチコちゃんだって、「こんなクスリ飲ませるんじゃねーよ!」って怒るわなー。

The Long and Winding Pipes
さぁ、真打ちの登場です。中国G社*9の医薬品製造所に関するものである。主たる問題点は、製造用水管理にあるが、設計から管理に亘るすべてが問題だらけ。と言うよりも、正しくは用水の品質なんて感知していないと言ったほうが適切のように思える。配管のデッドレグも3D Ruleも意識していない。お蔭で、バイオフィルムはあるわ、微生物限度は超えるわ。まぁー、当然の結果でしょうが、モニタリングもしておらず、OOSも後付けのようで、それが原因と思われる苦情も何のこと。

品質部門(QU)も状況は知っていたであろうに、実情を無視して出荷してたらしい。「お宅の品質システムには問題がある」といった査察官のコメント、どれだけ効果があるのか。企業向けガイダンス「Quality Systems Approach to Pharmaceutical CGMP Regulations」*10を勉強しろとまで言われているが、何となく “馬耳東風” に尽きるような気がしなくもない。それとも、どこかの国の政治家のように、都合の悪いことは「記憶にございません」で誤魔化すつもりかな!?

さすが真打ちの指摘は “奥が深い” 。そんじょそこらの一般的な指摘とは “格が違う”。チコちゃんから、「ねぇねぇ、3D Ruleって何のことか知ってる?」って質問されても、「3D Printingのことですよね。」って答えそう。

Magical Miserable Tour
中国が真打ち? なめんじゃねー、とばかり出て来るのはインドM社*11の製剤と原薬の両製造所である。メインは、原材料管理の不備、プロセスバリデーションの不備、機器設計の不備、原薬設備の洗浄と手順の不備であるが、プロセスバリデーションについては、“You released numerous batches of drugs, some of which contain ingredients with toxic components, without validating your manufacturing process.”とまで書かれている。さらに、設備設計の不備については、“dead legs, dripping XX(薬剤そのもの), and threaded piping”を査察官は目撃したと記されている。要は、デッドレグはあるわ、薬剤は滴り落ちているわ、ネジ切りパイプはあるわと言ったところでしょうか。

ここまでのレベルになると、チコちゃんもキョエちゃんも唖然と言うか、叱る以前に絶句するんじゃないでしょうか。先の中国製造所を真打ちと称してしまった筆者、(反面教師の)師匠、申し訳ございません。上には上がいるという教訓でございました。


と言うことで、今回はここまで。

各国の行政査察も、それぞれ国内については少しずつ平常に戻りつつある様子。そもそもGMDPコンプライアンスと査察とは別の話。査察対応としてやってるわけじゃない。医薬品の品質の“適用”の対象は、その医薬品を必要とする患者さんのはず。そうだとすれば、患者さんのために。患者さんに恥ずかしくない、胸を張って提供できる医薬品を供給しましょう。あなたの視線の先はどこに向いてます? そう、患者さんであって欲しいものです。製造販売業者だけじゃないですよ。受託製造業者であっても、卸売販売業者であっても、さらに輸送業者や店舗販売業者であっても、患者さんに目を向けてくださいな。それが、医薬品に関わる者すべてのミッションですよ。それを忘れると、チコちゃんどころか、キョエちゃんにさえも叱られちゃいますよ。ただし、キョエちゃんからは「バカー!(大好きって意味らしい)」じゃないですからね、悪しからず。

ちなみに、今回の各小見出し、ビートルズの楽曲タイトルの洒落だと分かった貴方はかなりの音楽通です(正式タイトルは注釈末尾を参照のこと)*12

では、また。See you next time on the WEB. 

【徒然後記】
息子よ、それを言っちゃあ、おしまいよ!!
時に、子供は残酷な言葉を吐く。よそ様の子供ではない。自分の子供である。
もう16年も前のことになるが、こんなことがあった。息子が大学生となり地方で下宿生活をしていた。ある夏の日、家内と娘(妹)を連れて遊びに行った。その日の晩、息子が行ってみたいステーキハウスがあるということで、彼の車でその店に向かった。見るからに高級そうなお店である。コースとなっているが、一番安いコースでさえ、目の玉がひっくり返る値段。見栄もあり、真ん中のコースを4人前注文する。ハッキリ言って、100g、1万円を軽く超える値段である。飲み物代金も加えるとー、として頭の中には「10万円!?」という数字が巡る。そこで放った息子の一言。
「友達の●●君は毎週食べてるんだって。」
よく話を聞いてみたら、その●●君、お父様が開業医で町の名士だそうな。息子に悪気はない。事実を言っただけ。
一方で、私は普通のサラリーマン。生活に困窮はしていなかったが、正直、そんな高級なステーキ、入ってしまったので食べたが、出ずに出られず、一世一代の見栄をはっただけ。そこに来て、お前の一言。味よりも、その時のショックの記憶の方が大きく残ってしまった。
息子よ、このときの親父の気持ちが分かるか。こういう気持ちが分かる大人になってほしいと、ただただ願う。


 
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*2:米国FDA/Warning Letter「PT. MegaSurya Mas MARCS-CMS 604366 — August 24, 2020」
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/pt-megasurya-mas-604366-08242020
 
*3:米国FDA/Guidance for Industry「Process Validation: General Principles and Practices」
https://www.fda.gov/media/71021/download
 
*4:米国FDA/Warning Letter「Kalchem International, Inc. MARCS-CMS 607098 — AUGUST 27, 2020」
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/kalchem-international-inc-607098-08272020
 
*5:米国FDA/Warning Letter「Acella Pharmaceuticals, LLC MARCS-CMS 604438 — August 14, 2020」
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/acella-pharmaceuticals-llc-604438-08142020
 
*6:EMA/2020年7月24日付 News Release「Panexcell Clinical Laboratories: suspension of medicines over flawed studies」
https://www.ema.europa.eu/en/news/panexcell-clinical-laboratories-suspension-medicines-over-flawed-studies
   
*7:米国FDA/Warning Letter「LEC Custom Products, Inc. MARCS-CMS 607838 — SEPTEMBER 24, 2020」
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/lec-custom-products-inc-607838-09242020
   
*8:米国FDA/Guidance for Industry「Testing of Glycerin for Diethylene Glycol」
https://www.fda.gov/media/71029/download.
   
*9:米国FDA/Warning Letter「Guangzhou Tinci Materials Technology Co., Ltd. MARCS-CMS 592199 — January 23, 2020」
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/guangzhou-tinci-materials-technology-co-ltd-592199-01232020
   
*10:米国FDA/Guidance for Industry「Quality Systems Approach to Pharmaceutical CGMP Regulations」
https://www.fda.gov/media/71023/download
     
*11:米国FDA/Warning Letter「Mayon's Pharmaceuticals Pvt Ltd MARCS-CMS 607388 — SEPTEMBER 04, 2020」
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/mayons-pharmaceuticals-pvt-ltd-607388-09042020
 
*12:以下、小見出し順です。
・   All You Need Is Love(愛こそはすべて):1967年7月リリース
・   Ticket to Ride(涙の乗車券):1965年4月リリース
・   You've Got to Hide Your Love Away(悲しみはぶっとばせ)
  :1965年8月リリース
・   P.S. I Love You(P.S.アイ・ラヴ・ユー):1962年10月リリース
・   Twist and Shout(ツイスト・アンド・シャウト):1962年6月リリース
・   The Long and Winding Road(ロング・アンド・ワインディング・
  ロード):1970年5月リリース
・   Magical Mystery Tour(マジカル・ミステリー・ツアー):1967年
  11月リリース

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古田 ドマ

古田 ドマ

GMDPエッセイスト

2018年に薬業関係の某有名誌のオンライン版にコラムニストとして忽然と登場。製薬業界の内部事情に詳しく、特に監査業務に造詣が深いことから、医薬品の品質保証業務に従事していたものと推測されるが、その正体は不明。毒舌的な内容が多いものの、ヒューマニズムを掻き立てる心温まる物語的な内容のものもあり、歯に衣着せぬ物言いは実務担当者にとっての心の声を反映した本音トークとも言える。