2019.08.09.FRI

レギュレーション

ドマさんの徒然なるままに【第7話】

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執筆者:古田 ドマ

ドマさんの徒然なるままに【第6話】



第7話:ボクはおクスリ

ボクは、何の変哲もない、普通のおクスリ。世界のどこかで病気に苦しむ患者さんのために生まれてきた。ボクの寿命はそう長くない。だから、命あるうちに、使って貰いたいと思ってる。ボクだけの力で救えるかどうか分からないけど、ボク、頑張るよ。ちょっとでも役に立ちたいから。なかには、粗末に扱う人もいるけど、ボクは恨まない。どんなに冷たい仕打ちであっても、どんなに理不尽あるいは不都合な仕打ちであっても、ボクは恨まない。だってボクの役目はヒトの命を救うことだから。

病気が治っても、みんながみんな、感謝してくれるとも限らない。でも、そんなの気にしない。感謝して欲しくて生きてる訳じゃないから。心のどこかで「病気治って良かったー!」って思ってくれてるなら、それでいい。だって、それは、直接じゃないけど、ボクに感謝してくれてるのと同じだから。

ボクには、沢山のお友達がいる。凄く強い子も、あんまり強くない子も。ボク? うーん、そこそこかな!? でも、強いだけが取り柄じゃないんだよ。病気って、色々あるじゃない。だから、ボクらはみんな、病気の相手に対して、今回はボクの出番、次は君の出番とか、向き/不向きと順番があるんだ。

でも、たまに自分の出番なのに忘れられたりしちゃうこともあるんだ。そんな時は、ちょっと悲しい。せっかく「頑張って病気治すぞー!」って言って自分の出番待ちしてたのに、「えっ、そんなー・・・。」って悲しいじゃん。でも、もっと悲しいことがあるんだ。出番が無かったからじゃないよ。そうじゃなくて、飲み忘れられちゃうこと。飲み忘れられちゃうと病気が治らなくなっちゃうこともあるからなんだ。そんな時は、「どうしてなの? あれほど、お医者さんからも「飲み忘れないように!」って言われてたじゃん」って、涙が出て止まらなくなっちゃうんだ。だって、ボクら、みんなを助けたいけど、自分から助けに行けないんだ。みんなのほうから使ってもらえないと、どうにもならないんだ。

酷い場合は、忘れられたまま、寿命が尽きちゃう場合もあるんだ。ボクの親友の一人は、生まれつき寿命が短かったこともあって、忘れられて。そのまま「期限切れ」とか言われて死んじゃったんだ。凄く悲しかった。ボクはそうなりたくないなー。

実は、ボク、生まれてくるまでが長いんだ。お腹の中でほぼ大人になるまで成長してから生まれるんだ。10年以上かかることも稀じゃないんだ。しかも生まれる確率が凄く低いんだ。ほとんどは、ドロップアウトと称して、諦められちゃうんだ。理由は色々あるけど、多いのは、副作用と言われる短所が強すぎ、あるいは、思ったほど効果が出ないっていったことかな。

そーなんだ。ボクらって、恐ろしいことに最初に選別されちゃったりするんだ。でも仕方ないんだ。無駄なことやると、動物やヒトに多大なる迷惑をかけちゃうし、もし万が一、生まれてからでも、害があったりしちゃったら、それこそ大変な事態になっちゃうだろ。病気を救うはずが、ボクらが生命の危機を招いちゃったりしたら大変じゃない。だから、細心の注意が払われて、色々なデータを取られて、これで大丈夫っていうお墨付きの下で生まれてくるんだ。格好良く言えば、エリートなんだよ、エッヘン! 

だから、ボク、お父さんとお母さんにはすごく感謝してるんだ。えっ、ボクのお父さんとお母さんは一人かって? 実はものすごく沢山のお父さんとお母さんがいるんだ。一人じゃないんだ。そういうのは、お父さんやお母さんって言わないって? そんなことないよ。ボクを大事、大事に生まれるまで育ててくれて、生まれた後でも育て続けてくれるんだから、間違いなく、お父さんとお母さんさ。世界一のお父さんとお母さんさ。だから、生まれたあとは、その感謝の意を込めて、頑張って患者さんを救いたいんだ。だって、それがお父さんとお母さんがボクを生んでくれて、育ててくれた理由であり、思いだから。

ボクが生まれたたことで、家族も増えるんだ。もっと強力な、ボクなんかも敵わないような強い弟や妹が生まれることだってあるんだよ。

ボク個人の寿命は短いって言ったけど、実は、ボクはクローンとしてズーッと生き続けられるんだ。少なくとも、製薬会社の人が、ボクの 品質” っていうものを大事にしてくれれば、ボクと全く同じ安全性と有効性を保ったクローンが、もの凄い数で生まれてくるんだ。そのためにProcess Validationだとかいう、大変な作業を文句も言わず、ひたすらやってくれるんだ。

しかもクローンごとだよ。ロットとかバッチとか言われることが多いけど、クローンを再生するごとに製造記録のレビューだとか、試験検査だとか言って、チェックしてくれるんだ。ボクの保管や移動から何から、全てだよ。凄いなーって思っちゃうよ。ボク自身は「身を任す」って殿様気分でいられるけど、関係者は大変だろーなー、っていつも思っちゃう。でも、お陰でみんなが安心して使える訳だから、そうじゃないとね。信用とか信頼って、言葉じゃないよね。こういう些細なことの積み重ねだよね。

いつでも、どこでも、手を抜くことはない。やるべきことは、ちゃんとやる。しかも普段通りに、当たり前のこととして。そんなことの繰り返しが、しかし、気を抜くことなく、最新の注意を払いつつ。ちょっとでも変なことがあれば、それを発見し、逸脱とか異常として検出してくれるし、ボク自身の体調管理までしてくれる。

しかも一方で、もっと良い方法とか、もっと高品質にとか言って、改善や改良までしてくれて、ボクがもっと楽をしていられるようにしてくれるんだ。ボクは楽チンだけど、回りのお世話してくれている人たちは大変だよ。それもこれも、みんな患者さんを救いたいって気持ちからだよ。だからボクも頑張れる。そうだよ、みんなの応援や支援があっての、クスリとしてのボク。もっと頑張らなきゃ。

あっ、そろそろ、また新しいお友達が来るころだ。どんなお友達かなー。楽しみだなー。ボク以上に楽しみに待ってる患者さんがいるみたいだし。

そうなれば、多くの患者さんが救われるんだ。ボク、もの凄く嬉しい。そういった時、「ボクは幸せだ、生まれてきて良かったー。」って思うんだ。

ボクの想い。みんなに伝わるかな? ちょっとでも伝わったなら、嬉しい。じゃーね、ホントは会わないほうがいいんだけど、もしボクや友達に何処かで会うことがあったら、よろしくね。ボクらは、いつでも君たちの味方だから。


こんな話、いかがでしたでしょうか。品質ということ以前に「クスリって何だ?」という原点に戻って、また患者という立場、いや、クスリ自身の立場になって考えてみるのも、いいんじゃないでしょうか。これこそが、本来の医薬品の製造・販売・流通等に携わる全ての者の役目なんじゃないか、と思ったりする。読者の皆様方がHow to的なものを嗜好することは承知している。それでも執筆する理由は、GxPを長い目で適切に運用して頂くためには、クスリ(医薬品)そのものの存在意義と運命を原点に戻って考えて頂くということが必要になるからである。


では、また。See you next time on the WEB.


【徒然後記】
去る7月18日の午前10時30分頃に、「京都アニメーション」で悲惨な放火殺人事件が発生した。筆者、特にアニメーションファンという訳ではない。が、この事件はあまりにも身勝手な犯行としか言いようがない。執筆時点(7月26日現在)で犯行の動機は不明のままであるが、たとえどんな理由であれ、当該社で働く方々に何の罪もないことだけは明白である。

現代のアニメーション、もはや芸術と言えるまでの文化となり、日本はその最先端を担っている。医薬品と異なり、直接的な生物学的・生理学的な作用がある訳ではないが、精神的な癒し、リラクゼーションやモチベーションの向上に繋がることもある。そもそも一般の患者にとっては、不快と感じる症状が緩和され治まればそれで良く、医薬品かどうかとかをあまり気にしていないのではないか。そんな“クスリ的効果”が出ることもあるアニメーションを生み出してくれているクリエーターの方々の芽を摘むような今回の悲劇。気分転換で十分に救われる多くのファンへの挑戦的な無差別テロに思えてならない。

今回の事件でお亡くなりなさった方々のご冥福をお祈りいたします。また合せて、重軽症を問わずケガをなさった方々にあっては、早く治癒されることをお祈りいたします。さらに、被害から免れた方々にあっては、事件の後遺症から一刻も早く立ち直り、益々ファンを楽しませてくれることを期待しています。

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古田 ドマ

古田 ドマ

GMDPエッセイスト

2018年に薬業関係の某有名誌のオンライン版にコラムニストとして忽然と登場。製薬業界の内部事情に詳しく、特に監査業務に造詣が深いことから、医薬品の品質保証業務に従事していたものと推測されるが、その正体は不明。毒舌的な内容が多いものの、ヒューマニズムを掻き立てる心温まる物語的な内容のものもあり、歯に衣着せぬ物言いは実務担当者にとっての心の声を反映した本音トークとも言える。

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