2019.07.12.FRI

レギュレーション

ドマさんの徒然なるままに【第6話】

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執筆者:古田 ドマ

ドマさんの徒然なるままに【第5話】



第6話:Psの悲劇

序章
今回も前話となる第5話「X+Yの悲劇」に近いマジメな話(筆者としては当然毎回マジメだと思っている)である。続編として執筆しているつもりはないが、GxP(ここではGMP・GDP・GQPなどの品質関係のGood Practicesの総称として用いている)に対する考え方と運用の基本(本質)を示した内容という意味では続編とも言える。そのため、第5話「X+Yの悲劇」と合せてお読み頂ければ、GxPの運用の幅と柔軟性が広げられることは間違いない。それもそのはず、今回も筆者のリスペクトする古田土真一先生監修のもと、先生の資料を提供して頂いて書いているからである。その意味では、本話も古田土先生+古田ドマの共著とも言える内容だと思って頂いて結構である。


第1章:最初の殺人、もとい、最初の意識と行動
まずは最初のPである。品質保証の基本は、予防(Prevention)だと思っている。逸脱であれOOSであれ、まして回収であれ、起こってしまったことをそのまま放置しておくことはないはず。その措置の度合いは発生した問題に比例するかもしれないが、通常であれば、可及的速やかに対処するはず。これは一般的には「処置」「処理」とか「修正」、“Correction”と称される。よく是正措置(Corrective Action)と混同されがちであるが、是正措置は水平展開や垂直展開をも含む、かなり大掛かりな、しかも問題の発生した原因(Root Cause)を基に是正することが求められ、決して“その場しのぎ”のものではない。さらに、通常の場合、再発防止として未然に防ぐことの意味合いから、時間軸を踏まえた予防措置(Preventive Action)が求められる。

最近は、CAPAと称してGxPの全てに対してその必要性が求められている。要素としては大事なことであり、各GxP組織として、その対策としての手順を準備することは要件としてごもっともなことである。が、先述のように、場当たり的な応急措置・緊急措置をCAPAと勘違いしないで頂きたいものである。

話を基に戻せば、問題が起こってからではなく、少しでも問題が起こらないようにすること、起こってしまった場合は少しでも被害・危害を最少にすることがリスクマネジメントであり、その対策としてCAPAを講じることに繋がる。当該企業がCAPAに対してどれだけ真摯に取り組んでいるかが、リスクマネジメントの強化であり、当該企業の経営方針、品質を軸として今風に言えば、品質経営(Quality Management)が垣間見える。別に大げさな話をするつもりはない。ごくごく普通にGxPコンプライアンスの一環として予防的(Preventive)な対応 を図って行けば良いだけである。


第2章:第2の意識と行動
次に2つ目のPである。予測的(Prospective)な対応 を図ることである。この対応は、前章に述べた予防的(Preventive)な対応と対をなしている。いま行っている行動が、どのような結果を導くことになるのか、常に予測しておくことが大事である。

その最たるものが、プロセスバリデーション(PV)なのではないか? PVは元々が予測的活動にすぎない。3回連続して成功すれば成立といったマジックナンバー(?)は妄想でしかない。その数字が根拠ないものであるからこそ、Ongoing Process Verificationなる考え方に基づくPVに至ったのではないか。「設計品質」の根底にあるQuality by Design(QbD)も、言い換えれば、予測的な品質保証と言える。「このようにすれば、このような結果(品質)となる」というだけのこと。そこには、プロセスを制御することで、当然の帰結となる結果としての品質を導くことに他ならない。

製造だけではない。分析であっても然り。そのためのICH Q14(分析法の開発と分析法バリデーション)と考える。リスクベース・サイエンスベースに物事を考え、妥当性を求めるのであれば、そこには必ず予測的な発想と根拠が求められるはずである。


第3章:第3の意識と行動
さらに3つ目のPである。積極的・前向き(Proactive)な対応 を図ることである。先述の2つのPの根底にある時間軸を踏まえれば、先を見越した・前もっての・事前行動ということになるであろうか。法規制だからやる。罰則規定があるからやる。なんて話はご勘弁願いたい。

そもそも、この手の「仕方なくやる」といった発想による行動はコンプライアンスとは言わない。医薬品というモノ、どんな状態の人に使うのかを考えてみれば答えは簡単なはず。好き/嫌いで済まされるシロモノでもない。それを使うときは、その患者の生命がかかっている。そのため、品質不良や品質劣化は「ゴメンなさい」では済まされない。だからこそ、今自分ができる最善のことを可能な限りキチンとやるということが前提なのである。そこには、品質への悪影響を見据え、リスクを低減化した、前向きなアクションが求められるのである。


第4章:第4のP、その謎の対象
それでは、今まで述べた3つのPsは何のために行うのか? その対象となるものは何か? そこには4つ目のPが控えている。その4つ目のPとは、そう「潜在リスク(Potential Risks)」である。読者の皆様、推理できたであろうか。

4番目のPはGxP全ての対象である。この対象に対する対策が、本話で説明した3つのPs、すなわち「Preventive」「Prospective」「Proactive」である。対象となる4番目のPである「Potential Risks」を考えず、しかも対策をとるべき3つのPsを侮ると、何が生じるか。そう、患者に被害や危害が及ぶのである。医薬品の存在意義、そしてその価値を知り、それを如何に守るか、それが医薬品に関わる者の使命、ミッションなのである。これらの関係のイメージを図1に示した。

要は、Potential Risks に対してPreventive・Prospective・Proactiveに軽減を図ることで、医薬品の品質不良や品質劣化による被害・危害から患者を守るということである。

図1



第5章:Psの悲劇に終わらせないために
本話、それほど難しい話ではない。皆様としても何となく分かっているはずのものである。ただ、日々の業務の中では、このSOPに従って、この文書をレビューして、この文書に署名して、と惰性で動いてしまい、「何のためにコレやってるんだろう」という意識が薄くなってしまっているのではないかと推察する。ときに、原点に戻って、その“目的”を見つめ直してみては、いかがであろうか。本来、GxPの定期教育といったものは、こういう“見つめ直し”も含まれるはず(また、本来のレビュー作業とはそういうチェックのはず)である。

今や、先にもちょっとだけ触れた品質経営(Quality Management)の在り方や品質文化(Quality Culture)の醸成といった、経営陣を巻き込んだ具体的なアクションと責任に言及されることが多くなった。品質経営はともかくとして、品質文化なるもの、筆者としては正直なところ、大げさすぎて好きではない。“●●文化”なる大看板を掲げる前にやることがあるはずと思っている。しごく簡単である。GxPに求められる本質を見極め、たとえそれが微々たること、些細なことであったとしても、気づいたこと、できることから少しずつでも、日常の業務の中で、こつこつと地道にPreventive・Prospective・Proactiveな対応を図っていくこと、積み重ねていくことである。そもそも“文化(Culture)”なるもの、結果として実を結ぶものなのではないか。品質文化なる掛け声をかけないと動けないのであれば、そもそもの“Quality Mind”に問題がある(or 欠落している)ように思えてならない、と言ったら叱られてしまうのであろうか。


終章
第5話「X+Yの悲劇」では、GxPコンプライアンスに対する発想の本質を伝えた。本話「Psの悲劇」では、GxPの対象と対策について伝えたつもりでいるが、読者の皆様の感想や如何に。


本話の終わりにあたり、本話の監修と図式資料をご提供くださいました、古田土真一先生に感謝致します。

では、また。See you next time on the WEB.


【徒然後記】
本話冒頭でも述べたが、本話は第5話「X+Yの悲劇」の続編として執筆しているわけではない。「X+Yの悲劇」のタイトルは推理小説からもじったものであることを第5話の徒然後記に述べたが、本話のタイトルは全く関係ない。本話の中で述べた4つの“P”の話は、古田土先生によると、かなり以前に某所でGMP関連の基礎的教育訓練のための講演依頼を受け、当時の日本の製薬企業に不足している点を、どのように伝えたら良いかと悩んだ挙句に考えついたものとのことである。ここに示した4つの“P”、その対応レベルや改善レベルはともかくとして、GxPの本質を突くポイントだと共感した。同時に、現在でも十分に活きると思った次第である。少なくとも、重要なポイントであることを読者の皆様にも感じとって貰えたのであれば、古田土先生にとっても、筆者にとっても甲斐があったと言える。

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古田 ドマ

古田 ドマ

GMDPエッセイスト

2018年に薬業関係の某有名誌のオンライン版にコラムニストとして忽然と登場。製薬業界の内部事情に詳しく、特に監査業務に造詣が深いことから、医薬品の品質保証業務に従事していたものと推測されるが、その正体は不明。毒舌的な内容が多いものの、ヒューマニズムを掻き立てる心温まる物語的な内容のものもあり、歯に衣着せぬ物言いは実務担当者にとっての心の声を反映した本音トークとも言える。

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