2019.05.31.FRI

品質システム(PQS)

医薬品品質保証こぼれ話【第4回】

この記事を印刷する

執筆者:浅井 俊一

医薬品品質保証こぼれ話【第3回】

医薬品品質保証こぼれ話

【第4話】失敗に学ぶ

井山裕太さんや藤井聡太さんなど若手棋士の躍進で、囲碁・将棋はかつてないブームを迎えています。
そのせいもあって、対局の様子をテレビで目にする機会も増えました。よく見られるのは、対局を終えた棋士が笑みも交え睦まじく対局を振り返る様子です。特に、負けた棋士は、どの一手が敗因に繋がったのかを探りながら、真剣に棋跡を振り返っている様子が印象的です。敗因を精査し、失敗の一手が明確になれば、次はそのミスを繰り返さないよう注意し対局を戦うことができます。

翻って、製薬工場の日々の活動に目を向けると、製造や試験検査の現場では日々、様々な品質に関連する問題が発生しています。中でも、異物混入や原料・表示材料の取り違えなどは、起こりがちな品質トラブルです。原因は衛生管理や識別管理の不備、教育訓練不足、業務フロー自体の問題など様々な要因が考えられますが、実際に発生しているこれらのトラブルの背景や詳しい経緯は、それぞれの製薬工場の事情や工程の特性、また、製造する製剤の特質などにより実に様々です。しかし、これらの失敗を繰り返さないためには、その原因を詳しく調査し、その原因に対し的確に対策を講じるのが基本であり、この考え方はどんな品質トラブルの場合も変わりません。

品質問題は製造過程や出荷時の試験検査で発見される場合と、出荷後、流通過程や使用の際に確認され、市場からの通報で知る場合がありますが、いずれの場合も、情報を得れば速やかに原因究明し、対象ロットの特定などを行い、適切な対策を講じて同じ失敗を繰り返さないことが重要となります。同時に、その内容や状況により、対象となるロットや周辺ロットの回収が必要となります。例えば、法定表示ミスや重大な健康被害に繋がる異物混入、また、安定性モニタリングの結果から、使用期間を通して品質が保証できない可能性があることが判明した場合などは、回収するのが妥当と考えられます。

どの企業も回収を避けたいのは当然ですが、比較的軽微と考えられる品質トラブルの場合は社内で意見が分かれ、回収の是非判断に苦慮されることも少なくないでしょう。このようなケースでは、同様な品質トラブルでも、回収する企業としない企業が見られますが、これには品質保証に対する管理者の考え方や企業風土の違いなどが関係すると考えられます。また、異物混入や包装不良(シール不良による液漏れなど)など、出荷後、市場からの品質情報(クレーム)により確認されることが多い品質トラブルの場合は、品質への影響や安全性の問題以外に、情報提供者の意思や利害も回収判断に影響する可能性があります。

例えば、内服固形剤への微細な繊維の混入一件で回収されるケースなどは、このようなケースに該当すると推察されます。ちなみに、医薬品の異物混入に関しては、2005年に新しい回収判断の考え方が示されたことにより、全般に、以前よりは適切な判断の下に実施されていると推測しますが、依然として、様々な異物混入に基づく回収報告が見られるのが現状です。
(注:過去の回収関連の通知は「医薬品・医療機器の回収について」(2014年11月21日, 薬食発1121第10号)に集約され、以前の通知は廃止されています)

1 / 3ページ

浅井 俊一

浅井 俊一

奈良県出身。1974年、ロート製薬入社。
退職後も継続して医薬品の品質保証をテーマとして活動。
製薬工場のヒューマンエラー低減策、中国等海外原薬の品質確保、医薬品異物混入防止対策、GMP記録の信頼性確保、行政査察対応などのほか、製薬工場のコミュニケーションの活性化、モチベーションの維持向上など人財育成にも注力。
中国での活動として、原薬工場の改善指導のほか、「新薬事法下の品質保証体制」(2009年/上海)、「日本に輸出するための原薬工場の要件」(2017年/杭州)などの講演や、CFDA主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。元日本OTC医薬品協会品質委員会委員長、元日薬連品質委員会常任委員。QAビジネスコンサルティング代表。薬剤師。趣味はチェロ演奏。