新技術最前線 新薬開発を目指す人へ【第2回】

第2回 『Photo Isolation Chemistry技術を用いた空間/領域特異的トランスクリプトーム解析』


「遺伝子」は生体の恒常的な機能の維持、成長、機能不全といった様々な場面で中心的な役割を果たしています。一方で、遺伝子の機能や活性は必ずしも生まれ持って決まっているわけではなく、時間・環境依存的な影響により変化します。近年、がんや生活習慣病を始めとする主に中高年齢に発症する病気において、後天的な遺伝子の活性変化が関わっていることが明らかとなってきています。遺伝子の活性を後天的に変化させるメカニズムを読み解く研究領域を「エピジェネティクス」と呼びます。エピジェネティクスは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作製・分化誘導やがんの免疫治療といった先端医療においても不可欠な概念です。第2回となる今回は、エピジェネティクス研究における「学術的発見」を産業として活用する「技術」へと繋げる活動をしている、注目のバイオベンチャーである株式会社Rhelixa(レリクサ)より、最先端解析手法PIC(Photo Isolation Chemistry)技術を用いた空間/領域特異的トランスクリプトーム解析をご紹介させていただきます。

 
1.はじめに
組織中の特定の細胞集団における遺伝子の発現を検証することはその生物学的特徴や医学研究によって非常に有用な研究手法です。特定の細胞集団の遺伝子発現を調べるためによく利用される手法として、目的の細胞・組織を顕微鏡で観察・確認しながら特定の領域のみをレーザーで切り出して回収するレーザーマイクロダイセクションや、細胞集団から細胞を分離するセルソーティングがあります。しかしながらレーザーマイクロダイセクションは、「組織および核酸への物理的なダメージ」、セルソーティングは、「位置情報が失われる。細胞懸濁時のダメージがある」と言った課題があります。これらの問題を最小化し、かつ低コストでの解析を実現した技術がPIC(Photo Isolation Chemistry)です。光開裂型ブロッカーがついたPIC用オリゴを用いることで、組織切片上でUV光照射した特定領域のみの遺伝子発現情報を取得することができます。


2.テクノロジー
PICは、Photo Isolation Chemistryと言う技術名称の頭文字です。オリゴdTに次世代シーケンサー用のアダプターと光開裂型ブロッカーと呼ばれる修飾をつけたオリゴを新鮮組織ブロックから作製した切片に添加し、切片上で逆転写反応を行います。解析対象の領域にUV照射を行うことで、その領域にある逆転写産物から光開裂型ブロッカーが外れます。ブロッカーの開裂により、2nd strand合成後に行うRNAのin vitro転写反応の阻害が無くなり、UV照射領域のみにおいてRNA増幅を可能とします。

 

3.検証実験
正常マウス腎臓組織を用いて、PICの検証実験を実施しました。組織切片を作製し、照射範囲、100μm、22μmの2条件でUV照射を行いました。以降は、通常のプロトコルに従いライブラリー調製し、リード1およびリード2合計で3000万リードのシーケンスを行いました。分子バーコードを用いて、ユニークリードと重複リードの比率を算出しました(図1)。30〜60%の割合でユニークリードを得ることができました。

次に得られたユニークリードをレファレンスゲノムにマッピングし、マッピングされたリードの割合を求めました。Condition1および2ともに85%以上のマップ率が得られ、発現解析に足りうる十分なリードがマッピングされていることがわかりました(図2)。

次に、マッピングされたリードが、既知の遺伝子に割り当てられた比率を算出しました。遺伝子発現としてカウントされたAssignedリードは、全体の40〜50%程度でした(図3)。

検出された遺伝子数は、条件1で14,067、 条件2で12,978となりました(図4)。UV照射範囲が、condition1で100μm、condition2で22μmと、 微小なスケールであったにもかかわらず、 12,000を超える遺伝子を検出することができました。

シングルセル解析においては3,000〜5,000程度の発現遺伝子を用いて、細胞集団の特徴付けを行いますが、PICでは微小RNAをスタートとする実験系であるにも関わらず、位置情報を保持したまま、その数倍に当たる遺伝子発現を検出することができました。condition1およびcondition2において、マウスの腎臓より検出されたマーカー遺伝子の一例を以下に示します。

 

3.おわりに
シングルセル技術では、個々細胞の遺伝子発現プロファイリングが可能ですが、細胞を分離しなければいけません。しかしながら、眼球、肺、皮膚などのような組織は細胞間接着因子に富むため調製が難しく、生細胞の場合は細胞を分離することによる人口的な影響が出る可能性もあります。しかしながら、PICでは、新鮮凍結切片にできる組織であれば適用可能なため、細胞分離の難しい組織の遺伝子変動解析に活用できます。
例えば、この技術の適用により、多種多様な細胞で構成される腎臓において、壊死した部位と正常部位の遺伝子発現の違いを、同時に観察することが可能となります。また、がん病変における部位ごとの発現変動遺伝子の検出にも適用することができると考えられます。
 

 


 コーディネータープロフィール

   小出 哲司
   理科研株式会社 戦略営業部 部長
 

2002年に理研ベンチャー、
株式会社インプランタイノベーションズ取締役を歴任。
2007年より理科研株式会社に入社。2013年より戦略営業部の部長に就任。新規事業開発及び、企業戦略を立案実行。2017年4月より取締役執行役員に就任し現職。顧客の企業価値を高めるための事業推進ドライバーの創出を一貫して推進している。
 
■■■会社案内■■■
理科研株式会社
~RIKAKENは世界からの最新商品や技術を研究者に提供~

理科研は医療、医薬、農業、食品等の先進科学に関わる製品や技術を研究者に提供する専門商社です。ライフサイエンスをはじめとする様々な研究をトータルでサポートし、多様なニーズに応えています。
 『先端科学の情報発信源』を目指し、ライフサイエンスの発展に寄与する会社です。

  <お問い合わせ連絡先>
理科研株式会社 東京支社 戦略営業部  小出
TEL:03-3815-8951 FAX:03-3818-3186
E-MALE:koide-t@rikaken.co.jp
URL:https://www.rikaken.co.jp/

 


著者プロフィール
 

  

  仲木 竜 
   株式会社Rhelixa 取締役CTO

   東京大学先端科学技術研究センター ゲノムサイエンス分野 油谷研究室にて
   学位(工学博士)を取得。計算生物学者。次世代シーケンサーより得られた
   大規模ゲノム・エピゲノムデータの専用解析アルゴリズムの開発・応用を
   専門とする。

 

■■■会社案内■■■
株式会社Rhelixa
当社はエピゲノム網羅解析の先端技術を活用し、生物学・医学・薬学領域における基礎研究や製品・ソリューションの開発、またはそれらの受託業務を行っています。次世代シーケンサーにより得られるエピゲノムデータの他、ゲノムやトランスクリプトーム、メタゲノムデータを組み合わせた統合的なデータ解析により、細胞制御の詳細なメカニズムの予測や精度の高いマーカーの探索を行います。また、エピゲノム研究開発のリーディングカンパニーを目指し、統合的データ解析用パイプラインの社内構築を行う一方、エピゲノム研究のさらなる普及のため、次世代シーケンサー解析環境の社外への提供も行っています。

<お問い合わせ連絡先>
株式会社Rhelixa
TEL:03-6240-9330 FAX:03-6240-9331
E-MAIL:customer-service@rhelixa.com 
URL:https://www.rhelixa.com/service/
以上

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます