GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第44回】

1.安心・安全
 コロナ禍の中、ワクチンの効果や副反応について、マスコミ等で取り上げられることが多い。ワクチンだけでなく、薬は、信頼されてこそ、その効果の発現と副作用、副反応の抑制がある。精神論で、薬の有効性と安全性を解決できるわけではないが、実際、プラセボ効果はある。本来、薬理的作用がないはずだが、心理的な効果というべきか、疾病により、その程度は異なるが、効果が認められる。逆に、患者や医療人に不安を感じさせる医薬品は、その時点でその薬としての信頼を失うことで期待する効果はなく、副作用の発現が倍増することになる。
 医薬品の信頼はどのように得ることができるのか。長期にわたり服用して、ある程度の効果も実感でき、副作用もなければ、それが安心感となる。鎮痛剤など、自分に合った薬を持っている方も多い。信頼する医師や薬剤師が薦める薬と安心することも多い。多くの患者は、医療機関から処方された医薬品を疑うことはないと思う。特に、薬に対するアレルギーなどがあれば、過去のアレルギーの経験から、薬に対して、慎重になるだろう。医療機関や薬局から、原料等に卵や牛乳などの成分が混入していないか問い合わせを受けることは間々ある。医薬品についても、アレルギー物質を含む表示が求められることになるかもしれない。
 医薬品品質を損なう事件が発生したが、これも、患者だけでなく、多くの医療従事者から日本の製薬企業全般に対して、信頼を失ったといえる。医薬品品質は、薬を見ただけでは分からない。そこが医薬品品質の難しい点である。見た目で判断ができるならば、その点を改善すれば、信頼を回復することは可能であろう。GMPの取り組みや製造所としての医薬品品質システムを構築しましたと言っても、一般人には伝わらない。医療従事者であっても、医薬品製造所を見学すらしたことがない方が多いのではないか。工場見学をしたからといっても、その製造所の医薬品の品質はわからない。当局による査察でも発見できなかったわけで、今後抜打ち査察が実施されることも増えることだろう。その効果に期待したいものである。
 今回の違反事例では、GMPの自己点検や製造販売業者のGQP監査も十分に機能していなかったようである。というより、二重の記録や裏手順書の作成など隠蔽するつもりであるから、自己点検やGQP監査で発見しても、記録されることはなかったと思われる。製薬企業として、経営陣から従事者一人一人まで、製薬企業としての使命感を持って、製品を取り扱うしかなかろう。製薬企業として、その企業の中で、お互いに信頼できる立場にいないといけない。上司が信頼できない人物なら、その指図も従えないだろう。また、部下を信用できなければ、業務を任すこともできないであろう。指図に逆らって、勝手に業務を行うことがないと言い切れられるよう信頼関係を築くことが必要である。そうでなければ、記録の完全性、データインテグリティも確保できない。
 薬機法は、規制法であるが、日本の衛生行政は、指導が主体であり、悪意を持って、故意による事件事故を対象としていない。今回の事例のような意図的に隠蔽しようとするものを対象とは考えていないのである。製薬企業として、当局に対してだけでなく、一般の国民、世界からも信頼を得られ、企業内部においても、信頼関係を築く体制が必要である。

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