医薬品開発における非臨床試験から一言【第12回】

医薬品開発のグローバル化に伴い、臨床第Ⅰ相試験が欧米で実施されるケースが増加し、また、ヒトでの探索試験に関するガイダンス(Microdosing)、Exploratory IND試験)が規制当局から提案され医薬品開発の促進のための戦略に組み込まれるなど、臨床試験を開始する上で必要なデータパッケージに関する考え方および医薬品開発を取り巻く環境は大きく変化しています。

2010年に公表されましたICHガイドライン、ICH M3(R2)で非臨床薬物動態試験の実施のタイミングは次のように示されています。
動物およびヒトの薬物代謝および血漿タンパク結合データに関するin vitro試験成績、並びに反復投与毒性試験で使用した動物種における全身曝露データの評価は、通常、臨床試験の前(通常、第Ⅰ相試験前)に行われるべきである。
毒性試験で使用した動物種における薬物動態に関するさらなる情報(例えば、吸収、分布、代謝及び排泄)や薬物相互作用の可能性に関するin vitroでの生化学的な情報は、多数の被験者あるいは長期間の投与を行う前(通常、第Ⅲ相試験前)に入手しておくべきである。これらの情報は、ヒトと動物の代謝物の比較を行い、追加の非臨床試験の必要性について決定するために利用できる。


臨床試験の実施側から考えますと、臨床第Ⅰ相試験は動物での曝露データを評価した後に開始すべきとされています。しかし、研究開発のどの時期に、どのような非臨床薬物動態試験を実施すべきかまでは規定していません。そのため、日米欧の地域あるいは医薬品を開発する会社の間でも臨床第Ⅰ相試験前に実施する非臨床試験の情報量に差が生じ、特に日本は欧米と比べて情報量が多いようです。そこで、日本製薬工業協会(製薬協)によるアンケート調査の結果等に基づいて、試験の目的を考察します。

毒性試験と関連性が高い薬物動態試験では、トキシコキネティクス(TK)が毒性投与量での曝露の確認が重要です。ただし、TKは未変化体の血中濃度を指標とした曝露評価になるため、この毒性領域の曝露が投与量に対して線形領域か否かの判断も重要です。これは、投与量の増加に対して相関した曝露量の増加(線形)であるかの判断になります。一方、投与量の増加に伴い未変化体の曝露量が相対的に減少または増加のような非線形を示す場合もあります。

ここで、吸収率について説明しておきます。生物学的利用率(BA、吸収率)の検討では、静脈内投与試験でのAUCを吸収率100%の結果と考え、経口投与試験のAUCを投与量で換算して比率を求めれば経口投与での吸収率(BA)を示すことができます。

血中曝露量が投与量に対して減少する非線形性を示す原因としては、経口吸収率の減少が考えられます。つまり、大量の経口投与により消化管での吸収が飽和し吸収されずに排泄されると、投与量に対して見かけの吸収率が低下します。この場合、毒性を示す血中濃度ではなく、薬理的な有効血中濃度にも達していないと、吸収率を上げる工夫が必要になります。例えば、結晶形を変える。ナトリウム塩からカルシウム塩など塩(エン)を変える。水和物なら、その辺りも考慮する。さらにアモルファスにしてみる。粒子径を微粉末にする。そして吸収補助剤を使用してのDDSなど。一般的にも多くの方法が提案されています。吸収の飽和では、投与量に比較して曝露量が増加しないため、毒性評価は、曝露量(TK)との相関で評価すべきと考えられます。

逆に投与量が増加すると曝露量が相対的に増加するような現象、つまり投与量が2倍になると曝露量が3倍になるような場合も見かけます。この原因としては、消化管の吸収過程ではなく、吸収後の代謝過程に飽和が生じて、代謝速度が落ちたために未変化体あるいは特定の代謝物が血中にあふれるような状態です。また、尿中排泄、あるいは胆汁を介しての糞中排泄も飽和が考えられ、血中に滞留するような結果となります。

一方において、薬物動態が一般毒性試験に関連する「性差」、および生殖毒性試験に関わる「胎盤・胎児移行性」や「乳汁中分泌」が挙げられます。性差は、薬物動態に雌雄差が生じることが原因で、げっ歯類(ラット・マウス)で生じたのか、さらには非げっ歯類(イヌ・サル)でも起きたかを見極めます。代謝過程の種差なども検討課題となり、動物種に特異的な場合もあるため、ヒト(臨床試験)での代謝予測を、ヒト肝臓試料を用いたin vitroでの代謝試験により精査して、種差のメカニズムに迫る必要があります。
 

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