医薬品品質保証こぼれ話【第13回】

感染症リスクと重要原薬の安定確保

 今回は予定を変更して、中国武漢が発生の源とされる新型コロナウイルスによる感染症が原薬調達や日本の医療に及ぼす影響と、今後の対策に関して考察を試みたいと思います。本稿を書き始めたのは2020年2月8日、中国武漢発の新型コロナウイルスが猛威を振るい、中国での感染者が3万人を超え死者が722人に達した時期です。テレビには、横浜に停泊している豪華客船ダイヤモンドプリンセス号の映像が映し出され、このクルーズ船内の感染者が64人に達したと報道されています。

 今回の問題は、日本および日本人に対する重大な影響として、大きく二つに整理できます。一つは、日本人の生命の安全への影響、もう一つは、原薬等の調達への障害です。調達に関しては、勿論、医薬品業界のみならず電子部品などあらゆる産業領域においても同様に重大な問題であることは言うまでもありません。

 先ず、一つ目の日本人の生命の安全に関して。今回の感染症と類似の外来の感染症にはSARS、MERSなどがありますが、これらは日本には伝播せず、日本人の生命や医療に影響することなく収束している点において、今回の件とは大きく異なります。今回の感染症が日本に伝播した最も大きな原因の一つは、中国人観光客が日常的に群れをなして日本全国の観光地を訪れるようになったことにあり、この流れを止めることは、日中関係の改善や中国への経済依存の現状からみて不可能とみられます。一方、今後も、中国発の新たなウイルスによる感染症の発生が否定できないことから、今回のような事態を招くリスクは常に潜在していると考えるべきであり、早急に、今回の経験を踏まえた、空港や港における、抜本的な防疫のスキームを策定し、実践する必要があると考えます。この課題は専門家に期待するしかありません。ちなみに、空港等における赤外線による体温検知のみでは不十分であることは、今回、証明されたのではないでしょうか?

 次に二つ目の本題、原薬等の調達リスクについて。今回の件が原薬や原料の調達に及ぼす影響の重大性は、SARSの時とは比べものにならないでしょう。当時は中国原薬の輸入が限定的であったのに対し、現在は、治療上きわめて重要な医薬品に使用される原薬を含む多くの原薬を中国に依存しており、当時の状況とは大きく異なります。このことは、直接、日本の医療を直撃することにつながるリスクにつながり、セファゾリンの供給不足に代表される重要医薬品の欠品問題が多くの医薬品で生じる可能性を示唆しています。今回のようなことが起きると、中国での生産はもとより、在庫として保管される原薬の中国からの輸出など、さまざまな基幹機能が麻痺することに加え、その原薬等の安全性の問題も考慮する必要があり、ほぼ完全に輸入が止まる可能性が高くなります。

 ちなみに、この状況に鑑み、厚生労働省(医政局経済課)は、医療への影響の最少化を目途に、2月4日付けで事務連絡「新型コロナウイルスに関連した感染症発生に伴う医薬品原料等の確保について」を発出し、日薬連はこれを受けて対応の具体的な手順、「新型コロナウイルスに関連した感染症に関する事務連絡への対応と医療用医薬品供給調整スキームの策定について」を迅速に策定し、2月7日付けで加盟団体に連絡し、協力を呼びかけました。

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