細胞加工施設を運用するキャリアの謎【第4回】

 突然古い話をして恐縮だが、ずいぶんと昔ベストセラーとなった『頭の体操』というシリーズがある(光文社刊、多湖輝著)。どうやら今もベスト版が書店にはあるようだが、このオリジナルとなった第1集(1966年初版)の問題にかかる、父親とのやりとりを私はいまだによく覚えている。問題は、こうである。
 「猟師が小屋を出て南に10km歩いた。それから向きを変えて、西に10km歩いた。それからさらに向きを変えて、北に10km歩いたら、自分の小屋に戻ったという。無論、小屋の位置は最初から変わっていない。こんな妙なことがあり得るだろうか。」
 私は当時小学生だったのだが、本を読んだ父は(註:発刊された当時購入したのではなく、古本だったと思うので年齢を計算しないように)この問題を唐突に娘に振ってきたのだった。なんの前振りもなかったので、改めて考えてみると「なに考えてるんだろう」と思う行為だが、娘は真剣に考えて、ひとつの答えを出してみた。
 この問題の正しい答えは、「猟師の小屋は北極点に建っていた。」である。ほおなるほど、というところなのであるが、私の答えは「小屋が10km四方で、猟師は小屋の周りをぐるっと回っていた」というものだった。そしてこれを聞いた父は、たいそう喜んだのだ。
 実は本書内には、正しい答えとは別に、私の答えた内容も「アリ」だと記載されていた。「それはもう小屋じゃないけどね!」という注釈付きだったが、論理的に考えれば、設問は元の位置に戻った、とは書いておらず、自分の小屋に戻った、と書いてあるだけだから、十分成立している(ぶっちゃけ国際法上、そんなところに猟師が小屋を建てるのだって非常識です)。そんなわけで父は
「あり得ないと思える条件に対して、これなら筋は通る、という仮説を自分で立てられるのはいいことだ。」
 そう言って(ミステリ好きらしい見解で)喜んだ。今も私の頭の中には、10km四方の小屋が北極点に建っている。

 ▽真実はいつもたいてい、ひとつではない
 さて、再生医療と問題解決の話をしていたはずが、なんでこんな出だしになったかというと、たびたび行うセミナーやら講義やらで質問を受ける中で、まだまだ細胞加工の「正しさ」を要求されるケースが多く、ふとこの問題を思い出したからだ。

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