再生医療等製品の品質保証についての雑感【第8回】

はじめに
 ここまでに、工程設計を行うための準備として、製造に用いる原料等および工程資材の品質確保について説明しました(第3回,第4回)。次に、工程設計において、細胞を製品としてきちんと製造できることを解説し(第5回)、工程設計に不可欠な製造の再現性を確保するために必要な、細胞製造性に基づく重要工程パラメータ(CPP)の重要性と機械化の意義についてお話ししました(第6回,第7回)。これらを適切に実施することで再生医療等製品を再現性よく製造する手順を整えることを可能にしますが、まだ、各工程において必要な手順は揃っていません。今回および次回では、安定して製品を製造するため、工程を適切に実施する上で必要な補助(サブ)工程についての雑感をお話しします。
 本稿の内容は、現状で主流の培養容器を開放して無菌操作を行う製造施設および製造方法における工程設計を前提としたものであり、今後より良い方法(手段)が得られる可能性があります。あくまでも過渡期における議論であることをご留意ください。


● 工程での原料等および工程資材の導入に必要な準備について
 再生医療等製品の製造で用いる培地等の試薬類(原料等)や、工程資材として用いる培養皿や遠沈管のような器材類は、多くがメーカーより購入した製品形態のままでは工程に使用することができません。また、工程毎で無菌操作環境に導入するために必要な消毒・除染に対して、必ずしも適切な包装形態ではないものが含まれます。そのため、原料等や工程資材は予め1回の工程に過不足のないように準備が必要です。筆者は、このような細胞加工の工程に直接連結する原料等・工程資材の準備をキット化と称し、準備される「キット品」は、工程の運用ならびに製品の品質確保において非常に重要な位置づけを有すると考えています。
 例えば、試薬類は予め各工程の必要に応じて分注/合一しなければいけませんが、このとき、活性因子等の培地への添加物については、投入後の失活を考慮する必要があり、調製後の使用期限管理は煩雑となります。また、事前に複数本数を準備する場合、フィルター滅菌など、無菌性保証の検討も不可欠と考えます。器材類は、一旦滅菌された包装を破り、工程分で再配分して再包装する必要があります。消毒・除染に対して問題の生じない外装であれば、購入時の包装を破らずに購入形態のまま無菌操作等区域に持ち込み未使用分も含め破棄する手順も選択できますが、生産数とともにロスが増えることが懸念されます。
 小規模な細胞加工機関では、工程分ごとに分けられた原料等および工程資材のキット化作業において改めて無菌化(滅菌)して個別に保証することは難しいと考えます。そのため、厳格な無菌操作によりこれらの作業を実施する必要があり、適切な品質保証を準備することは必須となります。並行してより多くの製品(バッチ)を取り扱う製造施設では、無菌操作によりこれらの原料等をキット化するためには、少なくとも専用の「試薬調製室」が不可欠です。一方で、現状での細胞以外の原料(培地等)およびアンシラリマテリアル(製造補助剤)の調製は、医療機関に多く設置される“CPC”と呼ばれる細胞加工施設の多くでは自己細胞由来の細胞加工物あるいは実施数の少ない臨床研究等を前提としており、同じ細胞調製室にて時期をずらしてキット化を実施することで試薬調製室を準備しない場合があります。試薬調製室は、本来、治験薬GMPにおいては必須であり、医薬品製造では当たり前の設備となりますが、本格的な商業生産経験の少ない再生医療等製品の製造ではまだ適切な活用例は少なく、分注・調製した少容量の試薬をどの段階(ベンチスケール・パイロットスケール・商業生産スケール)で個別に滅菌することを前提とすべきかは十分に議論できていません。再包装した工程資材についても、適切な滅菌処理を行うことが望ましいと考えますが、メーカーより未滅菌品を購入し自施設で滅菌バリデーションまでの管理を行うことは難しく、現状ではこちらも無菌操作により、市販品を再配分・再包装したものを適切な工程管理(最終製品での無菌性を保証可能な体制を構築するマネジメントなど)のもとで運用を行う事例が多いと考えます。

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