医薬生産経営論・特別編【第2回】

第2章 工場の受付でいただいた凶運。

大川を繋ぐ銀橋(桜宮橋)の方角から、何人かの子供たちの甲高い声が聞こえてくる。
小さな女の子の心臓移植手術のための募金を小学校低学年くらいの男の子や女の子たちが声を枯らして募金を呼び掛けていた。近くに小学校があるから、同級生たちなのかも知れない。
「今日は、木枯らし何号なの?」
両手を擦りながら、私は美魔女ママに聞く。要は、もっと飲ませてね、ということである。
「もう10号は過ぎているよ。『梓2号』じゃないよ。飲まなきゃ寒さで凍え死んでいるよ。肴が無くても酒は進む。子供たちも寒かろうに・・・。でも、必死に募金をしている。健気だねぇ」とママに話を躱される。
「でも、私はさっき募金してきたよ。だから、まぁ、気兼ねなく、飲める」
「ほぅ、感心だね。募金って、いくらしたの?」
「1,000円。まさか、900円、お釣りをくれって言えないし・・・」
「当たり前だろ、お釣りくれなんてギャグを言うと、小学生は引き付け起こしてひっくり返るよ。でもさぁ、伊勢神宮に行ったって100円しか賽銭を出さないケチなオッサンが1,000円だなんて、あっと驚く為五郎だね。このギャグも倒れそうになるかい?」
心臓移植の子供のために、多くの人がボランティアで募金活動をする。それは素晴らしいことであるし、感動するけれど、私は、医薬品製造企業の元・従業員として、一人の人間として、このようなボランティア活動は、医薬品企業が積極的に支援すべきだと思う。医薬品会社は売り上げや利益が至上主義であってはならない。人々が、長く健康で生きられるために、最大限の貢献をする、その使命が最優先である。新薬の開発に巨大な費用が掛かるが、ボランティア活動を支援するために数億円の寄付を行うことは、それほど困難ではない。数億円の寄付のため、その原資をコスト改善で賄うことは、容易くはないが、出来ないことではない。コストを改善して、病気に悩む苦しむ人たち、それを支える家族の方やボランティアの方々に貢献できる、その喜びは、必ずや、企業を更に成長させてくれるモチベーションの高揚を従業員にもたらすであろう。
子供や若者や壮年者たちの早逝ほど悲しいものはない。
桜木は、空に近い枝先から、つまり、若い枝先の葉から先に枯れ落ちて行く。その有り様は、私のような団塊世代の人間にとっても、嬉しくはない。古い方から順番に落ちていく方が心は慰められる。
多くの企業では、法令に従い、従業員の健康診断が年間1~2回、実施される。しかし、がん検診の対象者は35歳以上という会社が多い。確かに、罹患率という観点からは35歳以上でもいいが、病気になっての悲しさや悲惨さという点では、むしろ、若い人を健診対象にして欲しいと願う。罹患率に悲劇率を乗じた意思決定、従業員ファーストの考え方が必要である。それが、企業の新しい時代を必ず創る。

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