ジェネリック医薬品の四方山話【第6回】

~フォーミュラリー~

 2015年6月の経済財政運営の指針「骨太の方針」で、安倍首相はジェネリック医薬品の特許切れ品に占めるシェア目標を「17年の年央に70%、18~20年度末までの間のなるべく早い時期に80%以上達成」を閣議決定した。そして2017年6月、塩崎前厚労大臣は「80%目標の達成時期を2020年9月」と前倒しに設定した。
 さて現状のジェネリック医薬品の普及率はどれくらいだろうか?2017年3月の「最近の調剤医療費(電算処理分)の動向」によると普及率は68.6%で、骨太の方針の2017年年央の70%目標に接近している。ただ70%から80%への道のりは険しいだろう。富士登山に例えれば、現在は7合目、これから胸突き八丁と呼ばれる急峻な坂道が待っている。しかし80%を達成したとき、その医療費節減効果はジェネリック医薬品だけで1兆3000億円とも言われている。
 さて80%時代へ向けて、これからはジェネリック医薬品ばかりでなく新薬も含めた医薬品全体の経済性について、真剣に向き合うことが必要だ。その理由の一つがジェネリック医薬品があっても、ジェネリック医薬品と同種同効の新薬が出ると、「新薬」が上市されたというだけで新薬に揺れ戻す現象が起きる点だ。たとえばプロトンポンプ阻害薬にはすでにジェネリック医薬品が多数ある。しかしそんな中、同じプロトンポンプ阻害薬の中に新薬のタケキャブが上市したときに、ジェネリック医薬品からタケキャブへ揺れ戻しが生じた。
 こうした中、最近、病院では医薬品をその有効性、安全性に加えて経済性を加味した総合評価により、同種同効薬の中で使用優先順位を決めるフォーミュラリー(推奨医薬品リスト)作りが勧められている。たとえばフォーミュラリー作成を薬事委員会で積極的に行っている聖マリアンナ医大では、「タケキャブの有効性・安全性は既存のプロトンポンプ阻害剤と同等」という判定が委員会で下った。このためタケキャブはプロトンポンプ阻害薬としては、第一選択薬のオメプラゾール(後発品)、ランソプラゾール(後発品)、ラベプラゾール(後発品)に次いで第2選択薬となり、「プロトンポンプ阻害薬で効果不十分な場合に限り、消化器内科限定使用」となった。そして医師がオーダリングシステムでタケキャブを選ぼうとすると、オーダー画面上で「タケキャブは院内フォーミュラリーでは第二選択薬です、使用制限をご確認ください」とのコメントが現れるようにした。このような評価を経て、聖マリアンナ医大では現在、生活習慣病薬を中心に9成分の医薬品について選択優先順位を明記したフォーミュラリーを作成している(図)。このフォーミュラリーの使用によって聖マリアンナ医大では年間1300万円の医薬品費の節減を達成したという。


図 聖マリアンナ医大のフォーミュラリー


 実は医薬品の経済評価が盛んな英国では、こうした医師向けの医薬品選択は経済評価を加味した診療ガイドラインで行われている。たとえば英国の高血圧治療ガイドラインでは以下のように選択基準が示されている。「高血圧治療の第一選択薬は低価格なCa拮抗剤である。ARBを使うときも、まず低価格のARBから使用すること」。実際に英国でもARBの中での医薬品の価格差は、低価格なロサルタンと高価格のバルサルタンの間では10倍もの開きがある。
 一方、日本の高血圧治療ガイドラインではARB、ACE阻害剤、Ca拮抗剤、利尿剤のどれでも第1選択薬として使用可能で、国内では高価格のARBの処方が頻繁に行われ、巨大市場を形成している。
 こうした現状を受けて、2015年4月財務省の財政制度等審議会財政制度分科会では、「高額な降圧剤ARBが国内医薬品売上の上位を占める」ことを例に「生活習慣病治療薬等について処方ルールを設定すべき」との案が示されている。そして2016年6月「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)でも、「生活習慣病治療薬等の処方のあり方等について今年度より検討を開始し、2017年度中に結論を得る」としている。
 医薬品の経済性評価はジェネリック医薬品ばかりでなく、新薬を含めた全医療用医薬品で行うべきだ。

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