2018.03.02.FRI

品質システム(PQS)

製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方【第12回・最終回】

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執筆者:浅井 俊一

製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方【第11回】

製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方

第12回・最終回 「想定力」の強化と効用


【執筆者によるセミナー開催】
■2018年6月6日(水)
製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方​
 

2017年の秋から冬にかけて、大企業の製品検査データのねつ造や改ざんが次々に露見し、これまで長年培ってきた日本の製造業の信頼を揺るがしました。現在(2017年12月)報道されているだけでも、神戸製鋼所、日産自動車、スバル、三菱マテリアル(及び関連企業2社)が、同種の事象が社内で確認されたことを公表しています。なぜ、このような世界的大企業において品質管理の初歩的かつ基本的な事項が遵守できなかったのでしょうか? そして、どうすれば、こういった不祥事を防ぐことができるのでしょうか?
最終回となる今回は、こういった課題も含め、重大なヒューマンエラーを回避するためのキーワードとして「想定力」を取り上げ、考察を進めたいと思います。
 
2011年3月11日に発生した東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所の事故による被害が、あまりにも甚大で誰も予想できなかったことから、このとき、報道の場などで「想定外」という言葉が頻繁に使用されました。まもなく、あの未曾有の災害から7年を迎えますが、あれ以来、この言葉は、様々な場面で使用されるようになりました。
 
「想定外」とは、「思いもよらなかった」、「予測できなかった」、「想像を超えていた」、などの意味を端的に表現する言葉と理解しますが、件の震災発生時の使用においては、「その時点の科学技術、人知では予測できなかった」という点に強い意味が込められていたと思います。
ただ、「想定内」であったか、「想定外」であったかという議論に対しては、ほとんどのケースで明快な見解が示されないのが現状ではないでしょうか? 多くの場合、この判断には、その事件・事故の関係者の利害が絡むこともその一因と考えられます。
 
しかしながら、ヒューマンエラー対策の観点からすると、大切なことは、重大な問題事象の発生後にその原因の予測可能性を議論することではなく、重大事象の発生を事前に予想あるいは推定する力量、すなわち、「想定力」ではないでしょうか? 「想定力」を強化することにより、起こりえるヒューマンエラーを予見し、未然防止やトラブル発生後の被害の最少化対策をより的確に行うことが可能になると考えられるからです。
 
一般に、大地震やゲリラ豪雨など自然の大災害の場合には、たとえ、発生の詳しい日時や地域が予測できても被害を回避するには限界がありますが、上記のような大企業の不祥事や製薬工場における重大な品質トラブルは、発生することが想定できれば、その対策はかなり高い精度で可能になると考えられます。この観点から、想定力の強化は、上記のような重大なトラブルの回避に重要な役割を果たすと考えられます。
企業の組織や製造工程など、日常、人が様々な業務を行う場には、いろいろな問題が潜んでいます(以下、「潜在エラー」)。潜在エラーは放置するといつの日か顕在化し、ときに重大なヒューマンエラーの原因になります。想定力の強化は、この潜在エラーを事前に見出し、適切な対策を講じることで重大なトラブルを未然に防止することに繋がります。この観点から、「想定力」は「組織や工程に埋もれているリスクを発見する能力」と言い換えることができるのではないでしょうか?

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浅井 俊一

浅井 俊一

奈良県出身。1974年、ロート製薬入社。
退職後も継続して医薬品の品質保証をテーマとして活動。
製薬工場のヒューマンエラー低減策、中国等海外原薬の品質確保、医薬品異物混入防止対策、GMP記録の信頼性確保、行政査察対応などのほか、製薬工場のコミュニケーションの活性化、モチベーションの維持向上など人財育成にも注力。
中国での活動として、原薬工場の改善指導のほか、「新薬事法下の品質保証体制」(2009年/上海)、「日本に輸出するための原薬工場の要件」(2017年/杭州)などの講演や、CFDA主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。元日本OTC医薬品協会品質委員会委員長、元日薬連品質委員会常任委員。QAビジネスコンサルティング代表。薬剤師。趣味はチェロ演奏。