2018.01.05.FRI

品質システム(PQS)

製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方【第10回】

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執筆者:浅井 俊一

製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方【第9回】

製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方

第10回 「思い込み」の功罪

前回は「記憶の特性」に着目し、ヒューマンエラーとの関係を考察しましたが、今回は、取り違えや誤認の原因となるヒューマンファクター、「思い込み」とヒューマンエラーの関係について考えたいと思います。
「思い込み」は、人間が過去に得た知識、情報、経験、印象などが根拠となって生じるもので、類似する概念として、先入観や固定観念などがあります。これらは少しずつニュアンスが異なり、状況に応じて使い分けられますが、いずれも自身が保有する知識、情報、印象等への執着が原因で、ときに誤認や誤解を招くものですが、ここでは、これら類似する概念を含め、「思い込み」として取扱いたいと思います。
 
「思い込み」がものごとの正しい認識や判断を妨げトラブルの原因になることは、皆さんも日常、経験されたことがあるのではないでしょうか?「思い込み」という言葉は多くの場合、このように、あまりよい意味では使用されませんが、一方、「思い込み」には、記載に間違いのある文字列(文章)を補正して、その文字列から意味を見出すための支援を行うなど、好ましい側面もあります。
 
「思い込み」による誤認が招く重大な問題の一つに、「薬剤の取り違え」があります。ご承知のように医薬品には類似した名称のものがたくさんあるため、医師が処方箋を交付する際に、本来、処方すべき医薬品と間違えて記載する、また、薬剤師が医師の処方箋に基づき保管棚から医薬品を取り出すときに間違う、といったことが生じますが、薬剤の種類によっては人命に関わる重大な問題に発展する可能性もあります。
 
先ず、「間違った文字列を補正」するという特性に関して、下記の文字列によりご説明したいと思います。下記を黙読してみてください。
 
「にんげにんは さまざなまとくいせがあり これによりいろいなもんいだがしょうじます。 ひゅーんまえらーをこくふすくるには こういったにげんのとくいせをしり たいうおするひつうよがあります」
 
この文面にはたくさんの記載ミスがありますが、脳がこれら多くの誤記を補正して意味を得ようとします。これも「思い込み」、或いは、「思い込み」に類似した人間の特性(能力)によると考えられます。
 
このような「思い込み」による補正や誤認は、いずれも、新たな情報と過去に記憶された情報との照合が脳の中で瞬時に行われることにより起きるものですが、この照合の巧拙が、対象となる事柄の正しい認識に影響を与え、知識不足などの場合に誤認や取り違えが発生する可能性があります。たとえば、上記の薬剤名の取り違えに関して言えば、類似する名称の薬剤に関する情報をより多く記憶していれば、照合の段階でより精度の高い的確な照合が行われますが、関連の情報が少ないと照合対象が少ないために、誤認が発生する確率が上がります。

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浅井 俊一

浅井 俊一

奈良県出身。1974年、ロート製薬入社。
退職後も継続して医薬品の品質保証をテーマとして活動。
製薬工場のヒューマンエラー低減策、中国等海外原薬の品質確保、医薬品異物混入防止対策、GMP記録の信頼性確保、行政査察対応などのほか、製薬工場のコミュニケーションの活性化、モチベーションの維持向上など人財育成にも注力。
中国での活動として、原薬工場の改善指導のほか、「新薬事法下の品質保証体制」(2009年/上海)、「日本に輸出するための原薬工場の要件」(2017年/杭州)などの講演や、CFDA主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。元日本OTC医薬品協会品質委員会委員長、元日薬連品質委員会常任委員。QAビジネスコンサルティング代表。薬剤師。趣味はチェロ演奏。