2017.09.15.FRI

再生医療

再生医療等製品の品質確保のための要求事項【第1回】

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執筆者:水谷 学

再生医療等製品の品質確保のための要求事項

【第1回】再生医療の多様性と細胞製造性

はじめに
 再生医療・細胞治療のための細胞製品(再生医療等製品・特定細胞加工物)の品質確保では、生きた細胞を製品とするため、医薬品製造にて一般的な品質確保の考え方だけでは整理しきれない、固有の課題が生じます。一方で、人体に適用するものであり、製品のほとんどが無菌化工程を持てない(滅菌できない)ことから、従来の無菌医薬品と同等かそれ以上の管理にて、全工程を通じて一貫した無菌性維持を実施することが求められます。
 細胞製品の品質確保に求められる要件は、原料となる細胞の種類や、適用される治療の目的および方法により多様性が存在します。ここでは、これらの多様性を前提として課題を整理しつつ、安定した品質の細胞製品を供給するための細胞製造性(Cell Manufacturability)について概説したいと思います。
 補足ですが、ここでは法令で定められた再生医療等製品のうち、人または動物の細胞に培養等の加工を施したもの(細胞製品)を対象とした議論を行います。
 
●細胞製造と細胞製造性
 再生医療等製品の製造で行われる「細胞製造」とは、生きた細胞そのものを最終製品として調製を行うことです。生きた細胞に対し、加工と呼ばれる培養操作や遺伝子導入などを経て、目的の量と特性を有する細胞群を生成させて、適切な形態で包装・保管された後に出荷されます。当然ですが、原料および半製品も全て生きた細胞が対象となります。これらの点が従来の一般的な製造とは大きく異なり、固有の留意点を生じさせます。すなわち、生きた細胞は、通常その変化(生反応)を止めることが困難で、時間とともに系内で勝手に乱れてしまいます。変化を止めるためには、細胞を凍結状態にする必要がありますが、凍結処理を行うためには分注(下工程)の操作が必要となり、通常の培養工程中には細胞の変化を停止させることはできません。例えば、インキュベータから出された容器内の細胞あるいは培養タンク内の細胞を放置すれば、一般的な化合物(医薬品)と比較すると、それほど長くない時間経過によって活性の低下や凝集、細胞死などの変化を生じます。そのため細胞を操作する工程の品質確保においては、製造スケールや工数は細胞の状態維持を最優先に手順を決定する必要があり、工程操作が終了した後も細胞が安定(凍結あるいはインキュベータ内に静置)した状態に達するまでの工数および動作をケアした緻密な手順が不可欠となります。同時に、生き物であるがゆえに、物理的衝撃やシェアなどによっても想定外の変化を生じる可能性があり、その変化は最終製品からの評価(品質検査)が困難であるため、動作保証や工数のトレサビリティが重要となります。
 我々(阪大 紀ノ岡研)は、再生医療等製品の製造工程を決定するには、許容される各操作完了までの時間、および全工程を通して生じる変化(細胞の乱れの蓄積)を工学的に検証し、最終製品の品質に影響を与えていない範囲で制御する必要があると考え、工程設計についての検討を行っています。そしてこのような細胞製造性の考え方を考慮し、開発プロセスの早い段階で製品あるいは工程の設計を見直すことは、より迅速に製品の品質確保を達成する助けとなると考えています。

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水谷 学

水谷 学

大阪大学 大学院工学研究科 生命先端工学 特任講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。日本再生医療学会臨床培養士制度委員会委員、H-CARM特定認定再生医療等委員会委員。